研究課題/領域番号 |
23550023
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研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
石渡 孝 広島市立大学, 情報科学研究科, 教授 (40134811)
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キーワード | レーザー二重共鳴法 / ヨウ素分子 / 硝酸ラジカル |
研究概要 |
昨年度に引き続きヨウ素分子のイオン対状態の研究を継続するとともに、硝酸ラジカルの基底状態の振電構造に関わる研究を行った。 ヨウ素分子のイオン対状態について、I+(1D) + I-(1S)の解離限界に相関するイオン対状態f'0g+(1D)に見られる緩和過程に関わる励起状態ダイナミクスの測定を行った。(1+1)光子遷移を利用した光-光二重共鳴遷移で、f'0g+(1D) 状態へ励起すると、同じ解離限界に相関するf0u+(1D) から紫外域の発光が観測される。この発光と同時に、指向性の強いf'0g+(1D)-f0u+(1D)の発光が赤外領域に生じることから、 f'0g+(1D)への光励起に伴い、f'0g+(1D)とf0u+(1D)状態間に反転分布が形成され、f'0g+(1D)-f0u+(1D)の自然放射増幅過程が観測できることを明らかにした。また、f0u+(1D)状態から2つの価電子状態(0g+(bb), 0g+(ab))への発光スペクトルからそれらの離散状態および連続状態を解析して、ポテンシャル曲線を決定した。 硝酸ラジカルの2つの同位体種(14NO3, 15NO3)を用いて、基底状態の振動モードの解明を試みた。D3hの対称性を持つ硝酸ラジカルには4つの基準振動モーが存在する。赤外活性なν2とν4モードがFT-IR分光法で新たに観測でき、その解析を行った。また、ν3振動準位に関しては、レーザー誘起スペクトルの解析から、ν1バンドが15NO3では2つの準位に分裂することから、14NO3ではν1とν4振動状態が偶然縮退している可能性を見出した。しかし、ν3とν4モードを含むE'振電準位の解析には、第二電子励起状態(2E')との振電相互作用を含めた解析が必要であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヨウ素分子のイオン対状態f'0g+(1D)に光励起した時、f0u+(1D)状態への自然放射増幅過程による効率の良い緩和過程が存在することを明らかにした。この研究結果は、本研究の目的であるこの過程を利用した価電子状態の高分解能分光法の開発が可能となる重要な結果である。しかしながら、本研究における他の目的の一つであるヨウ素分子のエネルギーの一番高い解離限界に相関する2つのイオン対状態(0g+(1S)と0u+(1S))の光―光二重共鳴法による解析と、これらの状態をプローブ遷移の上準位として用いたイオン対状態間の衝突緩和過程の研究に、十分な成果が得られていない。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、イオン対状態からの自然放射増幅過程を利用した高分解能分光法を開発して、状態密度の高い原子価状態の離散準位の観測に適用する。この観測データーをもとに原子価状態のポテンシャル曲線の全貌を明らかにして、State to State Chemistry の立場から、原子価状態(B3Π0u+)の前期解離メカニズムを解明する。 また、より複雑な電子構造を有する分子系として硝酸ラジカルの励起状態ダイナミクスを研究課題に取り上げる。ここでは、基底状態に見られる励起状態との振電相互作用が振動励起状態のダイナミクス与える影響、また電子励起状態を利用した二重共鳴法などの高分解分光法の開発を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究計画に含まれていた衝突緩和ダイナミクスの研究に必要な機材(高調波発生用の結晶等)を購入しなかったため物品費に、また海外での研究発表を他の資金で実施したため旅費に未使用額が生じた。平成25年度は、この未使用額を物品費、旅費とその他に繰り入れ、平成24年度の予算と合わせて使用する。平成25年度に衝突緩和ダイナミクスの研究および海外での研究発表を実施する予定である。平成25年度の研究費の交付予定額(1,000千円)と平成24年度の未使用額(1,445千円)を合わせた平成25年度の補助金使用計画は以下の通りである。物品費1,487千円、旅費788千円、謝金70千円、その他100千円。
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