研究課題/領域番号 |
23550025
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
佐甲 徳栄 日本大学, 理工学部, 准教授 (60361565)
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キーワード | 人工原子 / 量子ドット / 電子相関 / フェルミ孔 / 共役フェルミ孔 / 配置間相互作用 / He様原子 |
研究概要 |
平成24年度は,本研究で対象とする人工原子内における電子の集団運動を明らかにするために,前年に構築した完全配置間相互作用法に基づく多電子波動関数を用いて,全電子の重心の回転運動を分離した「内部空間」における確率密度分布の詳細を解析した.特に,前年に着眼点を得た「フントの第一規則が成り立つ起源の解明」に焦点を当て,二電子人工原子に対応するHeおよびHe様原子イオンを比較対象として,一電子励起状態においてフント則が成り立つメカニズムの解明に取り組んだ. スピン多重度が大きい三重項状態と多重度が小さい一重項状態のエネルギー差は,He様原子イオンにおいては,核電荷が大きい場合には一電子エネルギーよりも電子間反発エネルギーの寄与が大きく,核電荷が小さくなるにつれてこの差が減少する.そして,核電荷がさらに小さくなり,中性原子に近づくと,三重項状態の方が一重項よりも,電子間反発エネルギーが大きくなることが知られている.一方,人工原子においては,閉じ込めポテンシャルの大きさを表す調和振動数の値にかかわらず,常に三重項状態は一重項状態よりも電子間反発が小さいという結果が得られた. 人工原子におけるこの振る舞いの理由を明らかにするために,内部空間における両者の確率密度分布の節構造の相違を調べた.その結果,通常の原子の場合には,急峻な勾配を持つクーロンポテンシャルの殻構造のために,基底状態と励起状態の軌道の空間的な重なりが小さいこと,一方人工原子においては,調和的な閉じ込めポテンシャルのため,この重なりが非常に大きいことが示された.そして,この空間的な大きな重なりのために,人工原子は内部空間において,フェルミ孔および共役フェルミ孔の体積が 大きくなり,電子間反発ポテンシャルによるフェルミ孔近傍の一重項電子の排除が小さいこと,すなわち,一重項状態の電子間反発の減少を抑制することが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度He原子における内部波動関数の詳細を解析した際に見出した「共役フェルミ孔」の構造を人工原子についても調べ,その結果,人工原子においてフントの規則が成り立つメカニズムの詳細を明らかにした.この成果は2012年度のJournal of Physics B誌に掲載され,英国物理学会が選出するIOPセレクトに選ばれている.また,欧州物理協会が発行するEurophysics Newsの1-2月号に,研究ハイライトとしてこの論文が紹介されている.
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今後の研究の推進方策 |
研究の最終年度である平成25年度は,本研究のテーマである「人工原子における複雑な波動関数とその背後にある電子ダイナミクスの解明」のために,角度相関の解明に取り組む.特に,最近の解析において,人工原子内の電子には非常に大きな角度相関が存在することを見出しており,確率密度分布の二電子角度依存性を調べることによって,この角度相関の閉じ込めポテンシャル依存性,スピン多重度依存性を明らかにし,角度相関が発現するメカニズムを解明する.さらに,人工原子に対応する自然原子についても同様の解析を行い,人工原子と通常の原子における角度相関の発現機構の違い,さらに電子ダイナミクスの相違を明らかにする.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究の最終年度である平成25年度は,海外共同研究者であるGeerd Diercksen教授(マックスプランク研究所・宇宙物理部門,ドイツ)およびPaul-Antoine Hervieux教授(ストラスブール大学・材料物理化学研究所,フランス)と研究打合せを行い,また,研究成果を国内学会および国際会議で発表し,国内外の研究者にその成果を問う.
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