研究課題/領域番号 |
23550028
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
山口 敏男 福岡大学, 理学部, 教授 (70158111)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | メソ多孔性物質 / 制限空間水 / X線回折 / 準弾性中性子散乱 / 水の構造 / 水のダイナミックス / 拡散係数 / 活性化エネルギー |
研究概要 |
(1) Ph-PMOの窒素吸着等温線を測定した。細孔比表面積は2309 m2/g、細孔体積1.00 cm3/g、細孔径27.18 Åが得られた。水およびメタノールの吸脱着等温線を測定した。乾燥試料の小角X線散乱測定から細孔細孔サイズを決定した。300~180 KでDSC測定を行い、Ph-PMO中の水の凝固温度が223Kであることを明らかにした。(2) Ph-PMO細孔中の毛管凝縮状態の低温水のX線回折測定を180~300 を行った。細孔中の水の四面体構造は、バルク水に比べて歪んでいることが明らかになった。また、親水性界面をもつMCM-41 C14中に水に比べて、四面体構造の歪みが大きいことが分かった。また、低温になるにつれて、水素結合が発達して、四面体構造が強化される。凝固点以下では、準安定な立方晶氷が生成することが明らかになった。(3) Ph-PMO細孔中の低温水の準弾性中性子散乱測定を行った。中性子準弾性散乱データから、細孔中の水分子の並進拡散係数、平均滞在時間、緩和時間のArrhenius プロットにより、活性化エネルギーを求めた。これらをバルク水、MCM-41 C14シリカ 中の水の値と比較検討した。細孔に閉じ込められた水はバルク水に比べ、小さなエネルギーで拡散し、疎水性界面の割合が増すほど拡散係数と滞在時間の活性化エネルギーが小さいことが明らかとなった(4) クラスター計算機を購入して、EPSR計算コードをインストールした。MCM-41細孔中の水のミクロ構造(界面水とコア水)を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ph-PMOの窒素吸着等温線によるメソ細孔のキャラクタリゼーション、水の吸着等温線と示差走査熱量測定により、毛管凝縮水の熱的挙動は明らかになった。また、X線回折と準弾性中性子散乱により、毛管凝縮水のミクロ構造と並進および回転運動の低温挙動も明らかにした。昨年の震災により、J-PARCの中性子散乱装置が使用不可能になり、当初計画していた同位体置換中性子回折による毛管凝縮水の水素結合構造の詳細を明らかにできなかった。
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今後の研究の推進方策 |
(1) Ph-PMO細孔中の低温水のH/D同位体置換中性子回折測定: PMO中にキャピラリー凝縮したD2O, H2O, D2O/H2O(1:1)混合物試料、および乾燥試料を調製する。J-PARC 物質・生命科学実験施設のNOVA分光器にて180~300 Kで3つの同位体試料について、散乱ベクトルQ = 0.01~50Å-1に渡り構造因子を測定する。(2) Ph-PMO細孔中の低温水の中性子スピンエコー測定:スピンエコー法の実験は、2012年7月にラウエ・ランジェバン研究所ILL(グルノーブル)のIN11C分光器で行う。PMOにキャピラリー凝縮吸着した重水D2O試料について180~300 Kの温度領域で測定する。得られた中間散乱関数I(Q,t)を弾性散乱項と非性散乱項に分離する。測定データを拡張指数関数を用い、緩和時間および緩和時間の分布を求める。Vogel-Fulcher-Tamman (VFT)式により、得られた緩和時間vs 1/TプロットからPMO細孔水の集団運動を調べる。(3) Ph-PMO細孔中の水のEPSR計算:Ph-PMOの結晶モデルを用いてシミュレーションセルを構築する。二体ポテンシャルは、シリカはMCM-41モデルを、有機基にはOPLS-AAを、水はSPC/Eを使用する。計算にはEPSRコードを用いる。乾燥試料および水吸着試料のX線・同位体置換中性子回折データを再現するように、初期ポテンシャルを修正してEPSR計算を行う。原子間距離、配位数、水素結合クラスター分布、3次元空間密度関数を、有機基とシリカ周りに独立して求める。
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次年度の研究費の使用計画 |
東北地方大震災のために、J-PARC(東海)およびJNN3(東海)における中性子散乱実験ができなったために繰越金(旅費、中性子セル)が発生した。J-PARCは回復したので、次年度に中性子実験を行う。物品費:中性子回折用バナジムムセル7セット、中性子非弾性散乱(準弾性、スピンエコー)測定用のアルミニウムセル(各3セット)を購入する。外国旅費;中性子実験(ILL研究所、グルノーブル、フランス)EMLG/JMLG2012国際会議で成果発表(Eger, ハンガリー)国内旅費:中性子実験(J-PARC,東海)2回、国内学会(東京、鹿児島、名古屋)各1回
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