研究概要 |
Yb(III)はアルコール溶媒中で2波長2段階光還元を示し,Yb(II)に変換できることを昨年度までに見出した. 今年度はこの反応機構について整理を継続し,その結果,物理化学の主要ジャーナルに掲載された.J. Phys. Chem. A, 117 (2013)8352-8359. この反応機構が他のf電子系イオンの反応にもこれらの結果が適用できるかどうか,検討した.実際,日本原子力研究開発機構 原子力科学研究部門の研究者,名古屋大学工学部物理工学科量子エネルギシステム工学の専門家と議論を進めることができた. レーザー励起による還元反応は紫外光励起,上述の2波長2段階光励起のほか,第3の機構も考えられる.本年度は初期の目標を発展させて,第3の機構の研究に主力を注いだ.その機構はフェムト秒パルス励起による溶媒のイオン化,それに伴う金属イオンの還元反応である.反応式としては次のように表せる.Yb(III) + e- → Yb(II) 同様の還元反応が起きた例として,Eu(III) → Eu(II),Sm(III) → Sm(II)があり,筆者らが報告している.フェムト秒パルスを溶液中に集光すると,自己収束→溶媒のイオン化→フィラメントの生成,非線形屈折率の時間変化→IRレーザー光は可視の白色光に変換,という現象が起きる. 溶媒のイオン化は多光子,またはフィールドイオン化が考えられる.3種のランタニドイオンLn(III)ではLn(II)になることが分かった.遷移金属についても同様の現象がみられるのかどうか,MとしてFeを試したところ,Fe(III)→Fe(II)を観測することができた.これらは溶媒のイオン化を伴う金属イオンによる電子補足反応であるとして説明でき,これらに関連した応用を展望した.
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