研究課題/領域番号 |
23550031
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
岩田 末廣 慶應義塾大学, 理工学部, 訪問教授 (20087505)
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研究分担者 |
松澤 秀則 千葉工業大学, 工学部, 教授 (30260847)
藪下 聡 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (50210315)
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キーワード | 分子間相互作用 / 量子化学計算 / 分子軌道理論 / 水クラスター / 分散相互作用 / 電荷移動相互作用 / 基底関数欠損誤差 |
研究概要 |
局所射影Hartree-Fock(HF)分子軌道(Locally Projected HF Molecular Orbital, LPMO)を基底とした一電子励起摂動法(Single excitation Perturbation Theory, SPT)によって、HF近似内では基底関数欠損誤差(Basis Set Superposition Error, BSSE)を避ける高速計算法を開発した。本方法では従来用いられていたCounterpoise法のような煩雑な計算が不要であり、計算速度も速く、水分子クラスター25量体にも適用できることを実証した。さらに、分子間相互作用エネルギーの定量的議論には不可欠な分散項(ファン・デア・ワールス項)をBSSEなしで高速に計算するために、摂動法に分散項だけを加えて計算する「LPMO 3SPT + 分散項」と呼べる方法を開発した。この方法を使い、水分子クラスター(H2O)n、ハロゲン結合体、電荷移動錯体の安定化エネルギーの計算を行い、CCSD(T)法による参考計算結果と比較し、良い一致が得られることを示した。この方法の一つの特徴は、沢山の閉殻分子から構成されているクラスター系の分子対毎に電荷移動項と分散項を追加の計算なしに算出することができることである。この解析法を(H2O)n(n≦16)に適用し、水素結合では電荷移動項と分散項が強く相関していて、共に重要な役割を果たしていることを示すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「LPMO 3SPT + 分散項」の計算プログラムはまだ並列化をしていない。しかしながら、水分子クラスター(H2O)n(n≦16)の計算をaug-cc-pVDZ基底で通常の計算環境で実行できる。具体的には、SGI UV1000という計算機でn=11の計算をするには、8core で3時間50分CPU時間を要する。ところがNWChemという並列度の高いプログラムで実行したCCSD(T)計算では240core で2346CPU時間も必要になった。10個の異性体の相対エネルギーは両方法で4kJ/molの差もない(全結合エネルギーは420kJ/mol)。普通の計算環境では、n=16をCCSD(T)で計算を実施することは不可能に近いが、本方法では容易であり、相対エネルギーの差は2kJ/molにも満たなかった。より大きな系に適用するためには、並列化は不可欠であるが、現在のプログラムでも十分高い実用性を実現している。 現在の計算プログラムの問題点は、LPMOを求める段階で、π電子系が重なっている場合に、scf計算の収束性が悪いことである。原因は”overcomplete”にあることが判明したが、これを克服するためにはscf部分の全面的書き直しが必要である。
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今後の研究の推進方策 |
1)LPMOの収束性に問題が生じる系が見いだされているので、LPMO解法を改良するアルゴリズムを開発する。また、OpenMPを使った並列化も避けられなくなっている。2)同時に、懸案であった開殻分子を含むクラスターへの適用可能を達成する。3)理論的な課題として、①励起状態における分子間相互作用の研究へ発展させる方策を探る。非直交分子軌道を用いた多配置摂動法がその可能性が高い。行列要素の計算には、近年開発されている原子価結合法計算のプログラムが活用できる。②分子間相互作用によって分子内電子相関が変化する影響を正確にかつ高速で計算する方法を研究する。4)これまで開発済みのプログラムを使い、モンテカルロ法と組み合わせ、水和された陽イオンと陰イオンの構造と熱力学関数を研究する。クラスター内反応も取り扱うことのできるサンプリング法を研究する。また、分散項が支配的な簡単な分子(例えばメタンやエタンなど)の気体状態関数を3体項まで入れてモンテカルロ法で直接計算する方法を研究する。5)これらの研究を通じて、LPMOを活用する理論が豊かな可能性を持っていることを示し、協力・共同研究者を増やす。
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次年度の研究費の使用計画 |
1) 研究成果を発表するために、国際会議や国内の学会で、口頭およびポスター発表をするための参加費と旅費に使用。 2)共同研究を進展させるための交通費・旅費として使用。 3)利用するソフトウエアを最新状態に維持するためのアップデート代金として使用。 4)文献・書籍の購入代金として使用。 5)外付けハードディスクなどこれまでの科研費で購入してきたパーソナルコンピュータの周辺機器の交換・修理などに使用。
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