研究課題/領域番号 |
23550035
|
研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
石田 豊和 独立行政法人産業技術総合研究所, ナノシステム研究部門, 研究班長/主任研究員 (70443166)
|
キーワード | 酵素反応 / QM/MM計算 / 自由エネルギー計算 / オロチジンーリン酸脱炭酸酵素 / 遷移状態安定化 / 基底状態不安定化 / アミノ酸変異 |
研究概要 |
オロチジンーリン酸脱炭酸酵素(Orotidine 5'-mono-phosphate decarboxylase、ODCase)は生物体内でピリミジン環を新規合成する過程で必須の酵素であり、オロチジンーリン酸(Orotidine 5'-mono-phosphate、OMP)からカルボキシル基を引き抜き、ウリジンーリン酸(Uridine 5'-mono-phosphate、UMP)を生成する反応を触媒する。本酵素の反応特異性を説明する為に導入された作業仮説「反応の基底状態を不安定化する事で、相対的に活性化エネルギーを低下させ反応を加速する」を検証するため、藤橋らにより決定されたMethanobacterium thermoautotrophicum 由来の高分解能構造を用い、QM/MM計算と分子動力学計算を組み合わせた複合モデリング計算を実施し、脱炭酸過程のモデル化および反応自由エネルギー変化を計算することで、酵素触媒過程の詳細なエネルギー解析を実施した。 理論計算から得られた構造を用いて、反応経路に沿ってエネルギー成分解析を実施し「基質の立体歪み」が化学反応に及ぼす影響を定量的に解析した。計算機を用いた仮想実験で、タンパク質場が基質に与える立体場/静電場の影響を徐々に取り除き、脱炭酸過程の活性化エネルギーへ「基質歪み」が寄与する程度を解析したが、全エネルギー成分の約2割弱程度で相対的に反応障壁を低下させる効果が認められ、「基底状態の不安定化」が酵素活性に無視出来ない寄与を持つ事が明らかとなった。またタンパク質場が作り出す主たる触媒要因としては、活性中心近傍の極性残基が作る静電相互作用が大きな因子であるが、主要残基をアラニンに変異させた変異型酵素のモデルを作成、自由エネルギー変化を解析する事で、酵素活性を低下させる要因をより詳細に解析した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は研究所内部での移動等により、必ずしも予定通りに研究が進捗しなかったが、今年度の後半から集中的に計算を実行し、また実験グループとの密な議論を重ねる事で、基底状態を不安定化するタンパク質場の効果に関する理解が深まり、酵素-基質複合体形成時における「基質歪み」が活性化エネルギー低下に寄与する程度も定量的に見積もる事が出来た。この結果をもとに、天然型酵素に対する反応エネルギーダイアグラムが(過去に報告された理論計算と比べても)より詳細に明らかとなり、酵素触媒過程をより定量的にモデル化する事が可能となった。 さらにここで得られた天然型酵素の触媒因子を解析する事で、触媒活性の鍵となる重要アミノ酸残基も絞り込む事ができ、触媒プロセスで必須と考えられるアミノ酸残基を変異させた変異型タンパク質の反応過程をモデル化・エネルギー成分解析を実行する事で、より酵素反応の本質に迫る解析が可能になると期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果として、「遷移状態を安定化する因子」と「基底状態を不安定化する要因」がそれぞれ明らかとなったので、「タンパク質場が形成する静電場」の主要な構造因子として、静電場を形成する重要アミノ酸残基を変異させる事により引き起こされる活性変化、およびその主たる分子論的な要因を詳細に解析する。 これまで得られた新たな研究成果を、学会や論文誌等で積極的に発表すると同時に、複数の変異型酵素に対して更にQM/MM計算、自由エネルギー計算等を実行する必要性があるため、ワークステーションを追加購入し、計算機資源をさらに充実させつつ、最終年度でも継続してシミュレーションおよびデータ解析を実行して行く。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度は本研究提案の最終年度に該当する。そこで今回得られた研究成果を積極的に発表するため、国内外の関連学会に積極的に参加して、本研究成果のアピールに努める。その為の出張旅費として本研究費を利用する予定である。またこれと平行して、タンパク質機能改変を意図した変異型酵素の反応解析のため、共同研究者である実験グループとの打ち合わせ、および新規に計算機資源を追加する予定があり、旅費と物品の購入が使用予算の骨格となる予定である。
|