研究課題/領域番号 |
23550037
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
池浦 広美 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測フロンティア研究部門, 主任研究員 (90357319)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 電子状態 / 放射光 / X線吸収分光 / オージェ電子 / 有機導体 / 有機薄膜 / 太陽電池 |
研究概要 |
有機分子が電気伝導性を示すためには、隣接する分子間を電子が自由に動く必要がある。そのため、分子設計においては分子間での軌道の重なりや電子の動きやすさに関する情報が不可欠である。2007年に提案者は内殻正孔寿命を利用して高分子(DNA)の伝導帯上の最低非占有分子軌道(LUMO)の非局在性(電子の動きやすさ)や分子鎖内の隣接する原子へのアト秒レベルの電子移動の新たな計測手法の報告。[Phys.Rev.Lett. 99, 228102 (2007)]を行った。この手法は、非占有軌道へ共鳴励起された内殻電子が内殻正孔寿命よりも長く局在化する場合(スペクテーターオージェ電子放出)と伝導帯を通って速い電子移動により非局在化する場合(ノーマルオジェ電子放出)とでは電子のもつエネルギーが異なることに着目し、両者のオージェ電子収量の分布から電子の移動時間や軌道の非局在性についての情報を得るというものである。 本研究では、LUMOや電子が不足した価電子帯上の最高占有分子軌道(HOMO)などの他の計測法では観測することが困難な非占有軌道の非局在性に関する情報を得るとともに、新たな計測手法として確立することを目的とする。これまで、ポリチオフェンなどの導電性高分子の計測を行ったが、速い電子移動は観測されなかった。当該年度は、ポリチオフェン誘導体の配向膜作製および金属ジチオレンおよび有機金属として知られる電荷移動錯体などの計測を行った。電荷移動錯体ではLUMOに加えて部分的に電子が不足したHOMOへの遷移が可能となる。HOMOへの遷移によって分子間の速い電子移動が観測され、金属に匹敵する電子移動速度を持つことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
地震災害により放射光施設での実験日数が削減される中、分子性導体である電荷移動錯体において金属にも匹敵する速い電子移動がドナーのHOMOへの励起によって観測されるなど新たな発見があった。有機薄膜の作製においてもドロップキャスト法でポリチオフェン誘導体の配向膜の作製がX線吸収分光スペクトルの偏光依存性で確認できるなど、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
内殻正孔寿命を利用した共鳴オージェ電子分光法を用いて、分子性導体である電荷移動錯体において速い電子移動が観測できたが、ジチオレン遷移金属では観測されなかった。有機導体の電導機構の解明および本手法を新たな計測法として確立するためにはこのような違いが何に起因するかを明らかにする必要がある。今後はスペクトルの解釈および解析法についても逐次検討しながら研究を進めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
地震災害により放射光施設での実験日数が削減され、試料購入の一部、国際会議や学会の参加費および旅費の使用を次年度以降に延期したため、当該研究費が生じた。次年度以降は分子性導体などの試料や有機溶剤、基板などの購入、学会参加費や旅費および共鳴オージェ電子スペクトルの解析システムのプログラム構築費などに使用する。
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