研究概要 |
有機分子が電気伝導性を示すためには、隣接する分子間を電子が自由に動く必要がある。そのため、分子設計においては分子間での軌道の重なりや電子の動きやすさに関する情報が不可欠である。本課題では、我々が提案した内殻正孔寿命(フェムト秒からアト秒)を利用した伝導電子の動的計測手法を、電荷移動により電子が不足した軌道(HOMO)や非占有軌道(LUMO)などの、他の計測法では観測することが困難な空軌道(伝導帯)の非局在性(電子の動きやすさ)に関する情報を得るとともに、新たな計測手法として確立することを目的とする。 本研究の最終年度にあたる今年度は、太陽電池において重要な役割を持つ電荷分離に関して本計測手法を用いて検討することで、電子状態に関する情報を得るとともに計測手法の評価を行った。太陽電池をモジュール化することなく、有機薄膜の電子物性を測定することで性能が評価できれば、効率的に素子の高効率化などの研究開発を進めることができる。本研究では、バルクへテロ接合(BHJ)型と呼ばれる有機薄膜太陽電池で広くに用いられている材料を使用した。ドナー分子にレジオレギュラー-ポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)(RR-P3HT)、アクセプター分子に [6,6]-フェニルC61酪酸メチルエステル(PCBM)を用いて混合させ、ドロップキャスト法により配向膜の作製を行い、X線吸収分光による偏光測定や共鳴オージェ電子分光(RAS)測定を行った。RR-P3HT/PCBMフィルム中のP3HT分子の配向はP3HTフィルムと比べて大きな差異は観測されなかった。RAS測定では電荷分離に関わる速い電子移動は観測されなかったが、RAS測定によるピーク分離の結果、RR-P3HT分子の空軌道の一つであるσ*(C-S)ピークの減少が観測され、電子状態が変化していることが明らかとなった。
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