研究課題/領域番号 |
23550039
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
嶋田 和明 岩手大学, 工学部, 教授 (10142887)
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キーワード | イソテルラゾール / ヘテロ環化付加 / 多置換ピリジン / Friedel-Crafts環化 / 縮環ピリジン類 |
研究概要 |
本年度は昨年度に続いてイソテルラゾールとアセチレン系ジエノフィルのヘテロ環化付加を経るピリジン環の構築と引き続く環化により、1-アザアントラキノン類の短段階合成に成功した。しかしジエノフィルの調製が効率的ではなく、目的生成物の総収率の向上には至っていない。また同様の手法による1-アザフェナントレン骨格の構築についても、適切なジエノフィルの合成に至らず、ヘテロ環化付加の検討には至らなかった。 また今年度は新たにo-ハロアセトフェノントシルヒドラゾン類に対するカルコゲン化物イオンの作用によるベンズイソカルコゲナゾールの合成とアセチレン系ジエノフィルとのヘテロ環化付加によるイソキノリン骨格の短段階構築の実現にも着手した。o-ブロモアセトフェノン・o-ヨードアセトフェノンに対して2段階の操作 [ (i) ヒドラジン1水和物、加熱、(ii) EZ異性体の分離、(iii) Z異性体について塩化p-トルエンスルホニル、ピリジン] を行ったところ、ヒドラゾンのZ異性体からは相当するZの幾何異性を有するトシルヒドラゾンが得られた。一方E異性体はシリカゲルとの接触等により容易にBeckmann転位を起こしてアセトアニリドを与えた。続いてZ-トシルヒドラゾンに対してエタノール中で単体セレンと水素化ホウ素ナトリウムを作用させたところ、基質の消失に伴い不安定な新たな化合物を与えたが、この反応混合物は徐々にo-ハロアセトフェノンを含む混合物へと変化し、ベンズイソセレナゾールの生成を確認することはできなかった。従ってこの手法ではアセトフェノンのオルト位への求核的セレン導入が起こらないことが明らかとなったため、現在オルトハロアセトフェノンのアセチルメチル基へのかさ高い置換基の導入によるZ-トシルヒドラゾンの選択的合成と環化に先立つオルト位のハロゲン原子のカルコゲン原子への交換を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1) イソテルラゾールとアセチレン系ジエノフィルのヘテロ環化付加を経る1-アザアントラキノン類の短段階合成には成功している。しかし前駆体であるジエノフィルの調製においてシリルアセチレンとフタル酸塩化物の反応がアセチレンケトンとクロロ体の分離不可能な混合物を与えるため、混合物のままで引き続くイソテルラゾールとの環化付加を行わざるを得ず、結果的に目的生成物の収率が向上しない。またジエノフィルの別途合成には現段階では成功していない。さらに同様の手法による1-アザフェナントレン骨格の構築に関しては相当する前駆体のジエノフィルの合成には成功しているが、イソテルラゾールとの環化付加を試みるに至っていない。 (2) ベンズイソカルコゲナゾールの合成に関しても、当初の予想に反して環化生成物を得るに至っていない。これについては現在検討している手法ではZ-オキシムトシラートの選択的的合成が困難であること、ベンゼン環のアセチル基のオルト位のハロゲン原子のセレンへの交換反応が進行しないこと、の2点が問題であると考えられる。 当初の研究目的を達成するためにはこれらの問題点のすべてを解決することが必須であり、それらが未解決の現状では学術論文等の作成にも着手できない。従って現段階では研究の達成度について「やや遅れている」と判定する次第である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においては上記の(1)と(2)の問題点の早期解決が課題となる。従って本年度は以下の方針に沿ってこれらの解決に全力を尽くす予定である。 (1) 1-アザアントラキノン類の合成に必要なジエノフィル前駆体としてシリルアセチレンとフタル酸塩化物ではなくベンゾイルアセチレンカルボン酸エステルを用いる方法に切り替え、その合成を検討する。合成手法としてはプロピオール酸メチルのベンゾイル化により実現できると考えている。また1-アザフェナントレン骨格の合成に必要なジエノフィルはC6H5CCCOCOORの構造を有しており、その合成はフェニルアセチレンと塩化オキザリルの反応により得られる。この合成を急ぎ、更に環化付加を検討する予定である。 (2) オルトハロアセトフェノン類のアセチルメチル基のハロゲン化と引き続くベンジルオキシ基の導入、カルボニル基のアセタール保護、ハロゲン部へのマグネシウムと単体セレン・テルルの作用によるセレン化・テルル化(ジカルコゲニドの合成)、アセタール基の脱保護、を順次行い、この生成物からのトシルヒドラゾンの合成と引き続くヒドリド還元(ジカルコゲニド結合の還元的開裂)による環化を検討する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度分からの次年度使用額は184,896円であるが、このような繰越金が発生した主な理由は当初購入を予定していた化学薬品の国内在庫がなかったため注文をキャンセルしたことなどによる。本研究の遂行にあたってはこの全額を次年度分の消耗品費、特に当初購入を予定していた化学薬品の購入に充てる予定である。なお次年度分助成金額(実交付額900,000円の予定)については当初の計画通りに物品費450,000円、旅費300,000円、その他150,000円の内訳で支出し、新規の設備備品費等への出費は全く予定していない。
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