研究課題
本研究では新規なフタロシアニン(Pc)類縁体の合成を通してPc化学の新たな領域の開拓を目指しており、(1)前駆体調整による新規骨格構築法の開発、(2)外部拡張類縁体を用いた超分子集合体の制御、(3)外部配位を用いた分子間相互作用の解明に焦点を当てて研究を行っている。(1)においてはジブロモジピロメテンを前駆体に用いた新規Pc合成反応を初年度は中心に行った。1,3-ジイミノイソインドリンとの反応において、トリアザポルフィリンが効率良く合成できることを見出し、外周部の縮環ベンゼンの数の異なる類縁体を得た。これらの吸収スペクトル測定から、ベンゼン環を持たない類縁体では置換基の摂動を受けやすいことが分かった。また研究計画書に記載したo-ホルミルベンゼンとの反応では目的化合物の生成は質量分析等で確認できたが、精製・単離が容易ではなかったために、置換基を調整するなどして現在検討を行っている。(2)ではπ-π相互作用部位としてテトラチアフルバレンが縮環したサブフタロシアニンを合成し、同定を行った。吸収スペクトルや電気化学測定から、この分子ではユニット間の相互作用が小さく、それぞれのユニットの物性を保持していることを明らかにした。今後フラーレン等との複合化を試みる。また研究計画書に記載したピレンの縮環したサブフタロシアニン類縁体ではC60あるいはC70との共結晶の構造解析を行った。一部の共結晶についてはマイクロ波伝導度測定を行ったが、フラーレンとサブフタロシアニンが交互に積層した構造であるために、期待していた高い伝導度は得られなかった。分子配列を制御することで種々検討を行う予定である。(3)では外部配位部位を有する歪みPcの合成も取り組んでいる。置換基の異なる類似の構造のPc分子は容易にフラーレンと共結晶化することがわかっており、さらに外部配位部位を用いることで特異な配位高分子を構築することが期待できる。
1: 当初の計画以上に進展している
初年度は合成研究を主に進めたが、目的としていた化合物の合成に研究計画の全てのテーマで成功しており、また(2)については伝導度測定まで行うことができた。一部のテーマでは当初計画からの合成戦略の変更等が必要であるが、予想の範疇であり、問題なく解決できると考えている。初年度に得られた全ての結果は次年度の研究へと発展が期待でき、一部の研究成果はすでに論文誌で発表していることから、総合的に見て当初計画以上に進展していると言える。
概ね研究計画書に従って次年度も研究を継続して行う。つまり(1)において初年度に生成のみを確認している分子については置換基等を調整することで、その単離・精製を試みる。またジブロモジピロメテンを前駆体に用いた類縁体合成反応では、環縮小あるいは環拡張フタロシアニン類縁体の合成も考えられるので、種々反応条件を変えて試みる。(2)では外周部ユニットにテトラチアフルバレンを有した分子について、その構造及び超分子相互作用を明らかにする。またピレン縮環サブフタロシアニンでは液晶性を付与した分子の合成に成功しているので、超分子相互作用によるゾルーゲル転移等を検討する。また並行して合成した超分子集合体の伝導度測定等を行っていく。(3)については初年度で途中のユニットまで合成できているので継続して合成研究を行い、外部配位ユニットを有する分子を用いた分子集合体を構築し、その物性を明らかにする。
研究経費は主に試薬・溶媒など合成研究に必要な消耗品及び研究成果発表のための旅費として使用する。また一部は合成研究の実験補助員のアルバイト代として使用する。
すべて 2012 2011
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