研究課題/領域番号 |
23550042
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
中本 真晃 筑波大学, 数理物質系, 講師 (90334044)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 高歪みσ結合 / テトラヘドラン / シクロブタジエン / 原子価異性化 / 光誘起異性化 / σ-π共役 / 反芳香族性 / へテロ原子 |
研究概要 |
高歪みσ結合からなる分子「テトラヘドラン」を合成し、σ-π共役系電子構造の解明を目指して研究を行っている。特に,高周期典型元素高歪み有機分子の光や熱等の外部刺激によって誘起される分子変換に関する実験的データに進展があった。高歪み典型元素σ電子系では外部刺激に応答して、容易にビラジカル中間体を生成するなど新しい共役系として注目されている。ケイ素置換基のような高周期元素を利用することで、高歪みσ結合の感応性が制御可能であることが判った。超高歪み炭素σ結合からなる分子「テトラヘドラン」に対して適切な置換基を導入すると,光誘起原子価異性化が起こり「シクロブタジエン」が得られることを明らかにした。以前我々は既にテトラヘドラニルリチウムの芳香族求核置換反応により、アリール基の置換したテトラへドラン誘導体となることを見いだしている。この分子はテトラへドラン骨格にsp2炭素が結合した初めての化合物である。今回はヘテロ原子置換された高歪み化合物の合成に成功した.つまりテトラへドランの置換基の一つをイオウ官能基に置き換えた分子を4種類,およびリン官能基に置き換えた分子を4種類合成し,それぞれの分子構造を明らかにした.その結果,置換基の非共有電子対の有無によって骨格歪みσ結合の反応性が大きく変化することがわかった.これは「n-σ*共役」によるものだと考えている.現在,詳細な反応機構に関して,理論計算も用いて検討を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度中には,新規テトラヘドラン分子を8種類合成し,単離,構造解析に成功した.これは高歪み化合物における分子変換の方法論が確立してきたことを意味する.テトラヘドラニルリチウムはアルキルリチウム反応剤と同様の反応性を示すが,その合成方法や取り扱いの困難さがこれまで大量合成を拒んできた.しかし,条件を整えることによって再現性よく,かつ効率的にテトラヘドラン誘導体の合成が可能になった.当初の目的とした「高歪みσ結合に及ぼす置換基の影響」について調べる基礎ができた.しかも,予備的な実験ではあるが,イオウやリンを置換基に導入した場合,スルフィド置換体では光反応でシクロブタジエンに異性化することがわかった,さらにスルホン置換体では,光反応でシクロブタジエンに異性化し,ホスフィン置換体では同様の条件下では異性化しないこともわかった.これは歪み結合の均等解裂に及ぼす影響の大きさによって説明できるもの考えている.今後は,異性化したシクロブタジエン誘導体における電子状態,特に反芳香族性へ及ぼす影響について明らかにしていく予定である.現在までに非対称置換のシクロブタジエン誘導体の合成方法は限られた方法しかなく,系統的に置換基を変化させた一連の誘導体を合成する汎用性の高い方法はこれまでに皆無であったといってよい.本研究によって初めて種々のシクロブタジエン誘導体を簡便に合成できる可能性が示せたことは大いなる進展であると評価している.
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に得られた結果を基にして、より一般性のあるアリール基置換テトラヘドラン誘導体の合成法を開発する。具体的にはテトラヘドラニルリチウムから適当な有機金属試剤へと変換し(B, Sn, Zn, Mgなど)パラジウム触媒を用いたクロスカップリング反応を行う。電子的特性の異なるアリール基を自在に導入できるならば、これまでテトラへドランの系では不可能であった系統的な置換基効果の検証が行える。より詳細な電子物性を明らかにするために一連のテトラへドラン誘導体の光異性化および熱異性化を検討する。テトラへドランからシクロブタジエンへの熱異性化はWoodward-Hoffmann則によれば対称性禁制であることは先にも述べた。実際、tert-butyl基の置換したテトラへドラン誘導体では135 °Cで熱異性化しシクロブタジエン誘導体になるが、シリル基で置換すると活性化障壁は大きく上昇し、300 °Cまで安定であることがわかっている。アリール基の導入によって熱異性化反応は加速されるのか、また異性化のメカニズムは理論化学の予想と一致するのかを検討する。熱異性化の中間体にはビシクロ-1,3-ビラジカル構造が推定されており、その構造や性質にも興味が持たれるため、計算化学や物理化学の専門家との共同研究を行う。なお次年度使用額として814,440円を計上している.当該研究費が生じた理由は,当初計画していた合成研究の一部を平成24年度以降も引き続き継続していく必要があったからである.しかし,平成24年度以降の使用計画において当初の使用計画からの大きな変更はない.研究費使用計画のうち大きな割合を占める費目は,引き続き化学薬品等の消耗品である.
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度の成果を踏まえて,出発化合物となるテトラヘドラン誘導体の一般的大量合成法の条件の最適化および精密化を行うことが,今後の研究推進に有益であると考え,次年度研究においても引き続き合成研究を遂行する.テトラヘドラン誘導体を合成するためには、高純度アルゴン雰囲気にした脱酸素、脱水条件下での実験が必須である。合成や分析には現有装置を利用できるが、これらの機器を最適の状態で使用するためには高純度のガスや溶媒の供給が必要不可欠である。研究経費の大きな割合を占める消耗品は主にシクロブタジエン誘導体やその他の出発原料の合成と反応に使用する。来年度は「光化学用紫外線発生反応装置」を用いた実験にも取りかかる予定である.温度コントロールも容易であり,光異性化反応機構の解析には最適である。そのためには液体窒素等の低温寒剤が必要となる.また、新規テトラヘドランの構造や反応性を理論的に検証するため、非経験的分子軌道計算を行うことを予定している.必要に応じて筑波大学内にある全国共同利用施設計算科学研究センターを利用する.その経費を研究費使用計画に含めている.
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