研究課題/領域番号 |
23550042
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
中本 真晃 筑波大学, 数理物質系, 講師 (90334044)
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キーワード | 高歪み分子 / テトラヘドラン / シクロブタジエン / 原子価異性化 / ケイ素 |
研究概要 |
高歪みシグマ結合からなる分子を構築し、シグマ-パイ共役系の電子構造の解明を主たる研究目的とした。この目的のためにケイ素官能基化されたテトラヘドランとシクロブタジエンを合成し、光や熱等の外部刺激によって誘起される分子変換のしくみに関して実験的および理論的に検証を行っている. 通常,有機分子は炭素シグマ結合によって形成され、物性はその構造に基づいた共役パイ電子系の設計によって決まる。シグマ電子系はパイ電子に比べてエネルギー的に安定であるため、電子物性に与える影響は小さいと考えられてきたが、高歪み典型元素シグマ電子系は分子の特性を決定する重要な要素であることが近年の研究で明らかにされている。本研究では原子価異性体の関係にあるテトラヘドランとシクロブタジエンを研究対象として、高歪みシグマ結合を活用した高度分子変換と新規シグマ-パイ共役系分子の創出を開拓する. 当該年度の成果として,超高歪み炭素シグマ骨格を有する分子「テトラヘドラン」を新規に合成し、その化学的性質を解明するために分子構造決定、各種分光学測定、光化学反応等を行った。本年度の研究成果として,パラジウム触媒を用いたクロスカップリング反応を利用することで,様々なアリール基の置換したテトラへドラン誘導体を合成した。電気陰性な置換基を導入したにもかかわらず、空気中加熱条件化でも安定であった。これはシリル置換基のシグマ供与性の効果に加えて、シグマ-パイ共役によって安定化していると考えられる.また,光異性化によって対応するシクロブタジエンへと変換できることも分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ペンタフルオロフェニル基を導入したテトラヘドランに光照射したところ、速やかに原子価異性体であるシクロブタジエンへと光異性化することを見出した。シクロブタジエンの分子構造はX線結晶構造解析により決定し、シクロブタジエン環は結合交替のある長方形構造であることを明らかにした.この成果は成果はアメリカ化学会誌(J.Am. Chem. Soc)に速報として報告した.最も重要な発見は,温和な条件下,高収率で極めて反応活性なシクロブタジエン誘導体を作り出したことである.また我々はすでに20以上の安定なテトラヘドラン誘導体を合成しているので,前述の方法を用いることで,様々なシクロブタジエンを得ることができると期待される.シクロブタジエンは4π反芳香族分子であり特異な電子状態を有するため,通常のπ共役系分子と比較してはるかに反応性が高く、分子構造や反応性に関する研究は限られている。我々の見出した手法によってシクロブタジエンの研究が進歩すると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は本研究課題の最終年度である.今後の研究推進方策として特に重点的に行うことは,環状4π電子系の反芳香族性については理論計算との連携により、詳細を明らかにするである。昨年度までの成果として既に,様々なテトラヘドラン誘導体の合成を行ってきた.そこで原子価異性体であるシクロブタジエンへの分子変換についての研究に重点を置く。予備的な実験において、アリール置換テトラヘドランの光反応によって定量的にシクロブタジエンが得られることを見出している。得られたシクロブタジエンは4π反芳香族分子であるため非常に高反応性のπ電子系分子であると予想されるが、4つの嵩高い置換基によって速度論的に安定化されているために、不活性ガス雰囲気下で単離することができる。それらのX線結晶構造解析やNMRなどを用いて分子構造を明らかにし、紫外可視吸収スペクトルや蛍光スペクトル、およびサイクリックボルタンメトリーにより電子状態を詳察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
テトラヘドラン誘導体を合成するためには、高純度アルゴン雰囲気にした脱酸素、脱水条件下での実験が必須である。また分析機器を最適の状態で使用するためには高純度のガスや溶媒の供給が必要不可欠である。研究経費の内、大きな割合を占めることになる消耗品は主にテトラヘドラン誘導体およびシクロブタジエン誘導体やその他の出発原料の合成と反応に使用する。また昨年度に引き続き,新規テトラヘドランの構造や反応性を理論的に検証するため、非経験的分子軌道計算を行う計画であるが、必要に応じて筑波大学内にある全国共同利用施設計算科学研究センターを利用する.
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