研究課題/領域番号 |
23550045
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
杉原 儀昭 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (00272279)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 有機合成化学 / 有機典型元素化学 / 複素環化学 / 薬化学 |
研究概要 |
導入する硫黄原子の数を制御でき,かつ無臭で取り扱いやすい硫化剤を開発することと,それらの有機合成への応用を検討することを目的とする.本年度は,市販の塩化クロロカルボニルスルフェニルとアルコールの反応より塩化アルコキシカルボニルスルフェニル(1)と,チオフェノールを出発物質として3H-1,2-ベンゾジチオール-3-オン 1,1-ジオキシドをそれぞれ合成し,その硫化反応の検討を計画した.前者については,塩化クロロカルボニルスルフェニルとメタノールより調製できる塩化メトキシカルボニルスルフェニル(1)を用いるアルケンからチイランの合成について検討し,アルキル基が結合した鎖状一置換,二置換,四置換および通常員環などこれまでよりも多様なアルケンに対して,極性溶媒中で(1)を反応させ1,2-付加物(2)としたのち,ワンポットで塩基性加メタノール分解を行うと,チイラン(3)が収率よく合成できること,歪みをもち.反応活性なアルケンに対しては,低極性のペンタン中で反応を行うと,一段階で(3)が収率よく得られることを見いだした.(1)の類縁体としてメトキシ基の代わりにt-ブトキシ基が結合した化合物の合成には成功したが,(1)よりも反応性が低いことがわかった.後者については,3H-1,2-ベンゾジチオール-3-オン 1,1-ジオキシド(4)とアルケン(5)をシリカゲルとともにすりつぶしたのち放置するとチイランが得られる固相反応について,IRの結果より,シリカゲルの孤立シラノールが(4)のカルボニルとスルホニル基の両方と相互作用すること,粉末X線の結果より,(4)と(5)に由来する結晶格子が五日後には観測されないこととアモルファスの(3)が生成すること,固体NMRの結果より,五日後以降もチイラン生成が進行することを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)およびその類縁体の合成と硫化反応については,アルケンとの反応において(3)を簡便に合成する方法を見いだした.これまでに広く使用されてきた方法としてオキシランを経由する二段階法が知られていたが,中間のオキシランの単離の煩わしさや,オキシランから(3)への変換に酸の存在や加熱など過酷な条件が必要とされた.また,求電子試薬に対して反応性の高いアルケンや中間に生成した(2)のC-S結合とC-Cl結合がアンチペリプラナーの配座を採れないアルケンに対しての報告はなかった.一方,一段階で(3)を合成する方法もいくつか知られていたが,多くの場合使用できるアルケンは反応性の高いものに限られていた.本法は,これまでに報告されているものよりも簡便かつ穏和な条件で行うことができ,汎用性のある,アルケンの立体化学を保持したチイラン合成法である.アセトンと(1)の反応では,α-位がチオ化された化合物へと変換できた.いくつかの(1)の類縁体の合成検討を行い,メトキシ基がt-ブトキシ基に置換したものについては.合成に成功し,反応性についても検討できたが.ベンジルオキシ基に置換したものについては,望む化合物の生成を確認できた.(4)およびその誘導体の合成と硫化反応については,(4)とシリカゲルを用いた(5)のチイラン化において,これら化合物を一緒にすりつぶすことによってシリカゲルのシラノールのヒドロキシ基が水素結合ドナーとして働き,(4)を反応活性にすること,(4)がシリカゲル上で分解したのちにも硫化能を持ち続けることを明らかにした.アルケンのチイラン化は(3)の簡便合成法として有用な反応であるが,溶液中での反応すら報告例は非常に少ない.固相でのアルケンのチイラン化は初めての例である.短段階でチオフェノールから(4)の合成検討は,二硫化炭素との反応が進行しにくいことがわかった.
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今後の研究の推進方策 |
アルケンとの反応では生成物がさらに(1)と反応して生成したジスルフィドが副生物として得られた.この副反応をさせないため,銅(I)塩などのソフトな金属存在下の反応について検討する.この方法を用いれば,アルケンのチイラン化において,生成したチイランが金属イオンと錯体を形成することから,硫黄原子の求核性に由来する副生物の生成を抑制することが可能である.また,引き続き(1)の有用性を探るため,ポリエンやアルキンなどとの反応を検討するとともに,(1)の類縁体の合成についてもさらに検討する. 市販の二塩化-1,2-ベンゼンジスルホニルとLi2SあるいはLi2S2の反応により,(1)のカルボニル基をより電子吸引性の高いスルホニル基に置き換えたベンゾトリチオール 1,1,3,3-テトロキシドあるいはベンゾテトラチイン 1,1,4,4-テトロキシドを合成とそれらをもちいた硫化反応について,検討する.また,引き続き(4)の簡便合成につき検討する.ビスマスの5価の化学種は不安定であり, 3価の化合物に還元されやすいことから,酸化剤として有機化合物合成で用いられている.炭素,酸素やハロゲン原子が結合した化合物は安定に単離されているが,スルホニル基など高い電子吸引性を示すもの以外で,硫黄原子が結合した化合物の報告例はほとんどない.硫黄原子が結合したビスムタンスルフィドや2,4-ジチアジビスメタンなど5価のビスマス化合物の合成,構造や反応性を検討するとともに,それらをもちいた硫化反応について検討する.また,ピリジン誘導体と(1)の反応でピリジンスルフィドの合成と硫化反応について検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究計画を実行するにあたり,硫化剤の合成原料や硫化能を調べるための反応基質など,多くの有機化合物を合成する必要がある.そのため,合成や精製の際に使用する有機試薬,無機試薬.有機溶媒.シリカゲル.ガラス器具が記載額程度必要となる.現在,1年間に使う消耗品費が100万円程度であることから,申請研究を遂行するにあたり,70万円程度を計上する.成果の発表と議論を行うため,研究内容に関連する日本化学会春季年会,複素環化学討論会,第10回国際ヘテロ原子化学会議で研究代表者と協力者の両者とも研究成果の発表を行う予定である.いずれも関西で開催されるため,20万円程度を計上する.研究遂行にあたり,化合物の構造決定や反応解析のため,埼玉大学科学分析支援センター所有の NMR,IR,MS,単結晶 X 線構造解析装置等の機器測定が必要となる.また,研究成果を論文にまとめるときに,より正確な英文で文章を作成するためにはネイティブスピーカーによる校閲が必要となる.それらの費用に10万円程度を計上する.
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