研究概要 |
導入する硫黄原子の数を制御でき,かつ取り扱いやすい硫化剤を開発することと.それらの有機合成への応用を検討することを目的とする.申請者らが開発した塩化アルコキシカルボニルスルフェニル(1)を用いたアルケンからチイランのワンポット合成法の有用性を探る目的で,ジエンやヘテロ原子を有するアルケンなどに適用した.環状非共役ジエンでは(1)を当量用いたときには対応するモノチイランが選択的に得られ,二つの二重結合部における反応性の違いが観測された.鎖状非共役ジエンでは.(1)を当量用いたときには選択的なチイラン生成とはならなかったが,2当量用いるとビチイランが生成した.アリルエーテルとアリルフタルイミドでは対応するチイランが得られたのに対し,アリルスルフィドやアリルスルホンを用いた場合には,隣接基関与やα水素の高い酸性度により,複雑な混合物が生成した,3H-1,2-ベンゾジチオール-3-オン 1,1-ジオキシド(2)の硫化能を検証する目的で,固体のアルケンあるいはホスフィンとシリカゲルとを一緒にすりつぶしたのち放置する固体反応を検討した,2,2'-ビアダマンチリデンでは対応するチイランを与えたが,2-メチレンアダマンタンとの反応ではアルゴン雰囲気下でも2-メチル-2-アダマンタノールが得られた.ホスフィンとの反応ではホスフィンスルフィドが生成することをIRにより確認した.ビスムタンスルフィド(3)や2,4-ジチアジビスメタンなど5価のビスマス化合物を合成することを目標に,トリアリールビスマスと塩化トリフェニルメタンスルフェニル(4)を作用させると,MSの結果から(3)の可能性がある黄色固体が微量ながら得られた.アミンスルフィドの合成についてはDABCOと(1)を用いて行い,硫黄を含むアミン誘導体が得られたが,現在のところ単離には至っていない.
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今後の研究の推進方策 |
[新規な塩化アルコキシカルボニルスルフェニルおよび関連化合物の合成と硫化反応]では,これまでに検討していなかったアリルアシラートなどヘテロ原子を含むアリル化合物やエノールエーテルについて検討し,ワンポットチイラン合成法の適用範囲を探る.また,本年度の検討において,チイラン合成の二段階目のアルカリ性加アルコール分解で複雑な混合物を与えたアリルスルホンについては,リパーゼなどを用いた穏和な条件での加水分解について検討する.さらに,アルキンや電子供与性置換基が結合したベンゼン誘導体,π電子過剰ヘテロ芳香族化合物と(1)の反応についても検討する.[3H-1,2-ベンゾジチオール-3-オン 1,1-ジオキシドおよび関連化合物の合成と固相での硫化反応]では,二塩化-1,2-ベンゼンジスルホニルとオリゴ硫化物塩との反応を利用してベンゾオリゴスルフィド-1,1,ω,ω-テトロキシドを新たに合成し,その硫化能の検証を行う.[ビスムチンスルフィドおよびチオヨードソベンゼンの合成と硫化反応]では,トリアリールビスムタンと(4)の反応の最適化条件を探索し,(3)の収率向上を目指す.(1)を用いた(3)や2,4-ジチアジビスムタンの合成についても検討する.また,チオヨードソベンゼンの合成検討では,ヨードベンゼンと(1)や塩化硫黄類の反応やヨードソベンゼンと五硫化リンやLawessson試薬の反応について検討する.アミンスルフィドの合成と硫化反応については,キヌクルジン誘導体やピリジンを出発物質として検討する.
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