研究課題/領域番号 |
23550051
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
迫 克也 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90235234)
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キーワード | 分子素子 / 1分子科学 / 有機電子材料・素子 / 光物性 / 電子・電気材料 / 有機導体 / ナノ材料 / 機能性有機材料 |
研究概要 |
本研究では、剛直な基本構造(B)にドナー(D)、光増感部(P)、アクセプター(A)を三次元的に配置した新規な電子移動制御機能を有するD-B(P)-A三元系分子フォトダイオードの創製を目的とする。 今回、母体分子であるD-B(P)-D三元系分子として、ドナーである1,3-dithiol-2-ylidene(DT)が直交したDT直交型シクロファン(1)に臭素を導入したブロモ置換DT [3.3]パラシクロファン(2)を合成し、臭素をπ-電子系ドナーであるグラフェン部分構造のピレンを置換したピレン置換DT直交型[3.3]パラシクロファン(3)を合成しようとしたが、DTドナーによる立体障害のため反応が進行しなかった。そこで、母骨格のブロモ[3.3]パラシクロファンにピレンを導入した後に、DTドナーをWittig- Horner反応によって、D-B(P)-D三元系分子であるピレン置換DT直交型[3.3]パラシクロファン(3)の合成に成功した。 1に比べて2、3では、分子内電荷移動吸収帯(ICT)がそれぞれ20nm、50nm以上長波長シフトしていることから、DTドナーと臭素あるいはピレン間で分子内の電子的相互作用(電荷移動、空間を介した共役)の存在が示唆された。 3ではドナーとしてのピレンの影響により、DTドナーのラジカルカチオンが生成する酸化過程において、二つに分裂した酸化過程が観測された。このことは、DTドナーと臭素、DTドナーとピレン間に電子的相互作用が存在し、シクロファンベンゼンにドナー又はアクセプターを導入することにより、DT直交型シクロファンへの電子構造修飾が可能であることが示唆された。また、DT直交型ブロモ[3.3]パラシクロファンの臭素置換基をホルミル基等の他の官能基に変換できたことは、剛直な基本構造であるシクロファン部分に光増感部を導入する上で、合成的に大きな成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由として、合成上重要な鍵中間体、その後の官能基変換及び、光増感部(P)の導入が成功したことが挙げられる。具体的には、目的とする剛直な基本構造(B)にドナー(D)、光増感部(P)、アクセプター(A)を三次元的に配置した新規な電子移動制御機能を有するD-B(P)-A三元系分子フォトダイオードの母体分子であるD-B(P)-D三元系分子として、光増感部(P)にピレンを導入したピレン置換DT直交型[3.3]パラシクロファンが合成できた。また、D-B(P)-D三元系分子の鍵中間体であるDT直交型ブロモ[3.3]パラシクロファンの臭素置換基をホルミル基等の他の官能基に変換できたことは、剛直な基本構造であるシクロファン部分に種々の光増感部を導入する上で、合成的に大きな成果である。 また、基礎物性の面からは、シクロファンベンゼン環への電子吸引性基として機能する臭素置換基や電子供与性基としてのピレンなどの官能基導入により、DTドナーとシクロファンベンゼン環間での分子内電子相互作用の制御が明らかになった。この事実は、剛直な基本構造であるシクロファンに光増感部や異なるドナー部等を導入することにより、三次元的に配置したドナー(D)、光増感部(P)、アクセプター(A)間に外部刺激による分子内電子移動が発現する可能性を示唆している。このことは、直交した異種のπ-電子系間の相互作用と基礎物性との相関を明らかにする上でも、基礎的な知見として重要である。
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今後の研究の推進方策 |
まず、平成24年度に確立した光誘起電子移動制御能を有するD-B(P)-A三元系分子フォトダイオードの母体分子であるD-B(P)-D三元系分子の一つである光増感部(P)としてピレンを導入したピレンDT直交型[3.3]パラシクロファンの合成法を用いて、他の光増感部(P)としてペリレン、ヘキサベンゾコロネン等の縮合多環芳香族をシクロファンベンゼン環に導入して、各々を三次元的に配置したD-B(P)-D三元系分子を合成する。 次いで、D-B(P)-D三元系分子の一つである光増感部(P)としてピレンを導入したピレンDT直交型[3.3]パラシクロファンの合成法を応用して、光増感部(P)としてピレン、ペリレン、ヘキサベンゾコロネン等の縮合多環芳香族をシクロファンベンゼン環に組み込んだD-B(P)-one誘導体を合成する。更に、D-B(P)-one誘導体のカルボニル基部分にアクセプターとしてジシアノエチリデン、ジシアノキノジメタンを導入したドナー(D)、アクセプター(A)、光増感部(P)を三次元的に配置した光誘起電子移動制御能を有するD-B(P)-A三元系分子フォトダイオードを合成する。 これらの合成したD-B(P)-D三元系分子及びD-B(P)-A三元系分子において、光誘起によって発生する化学種の安定性を調べるために、低温での測定・短時間測定が可能な分光蛍光光度計、紫外可視分光光度計を用いた測定や電解電子スペクトル測定により、D-B(P)-D三元系分子及びD-B(P)-A三元系における光誘起電子移動の基礎データを収集し、直交した異種のπ-電子系間の相互作用と基礎物性との相関を明らかにし、その妥当性を評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では、主に1)母体となるD-B-A三元系分子の合成、並びに2)縮合多環芳香族増感部を組み込んだD-B(P)-A三元系分子の合成、基礎物性及び光誘起電荷分離等の光物性測定のために研究費を使用することになる。 特に、1)2)の合成法に使用する合成・測定試薬及びガラス器具(合成・測定)が、消耗品中の薬品・ガラス器具の経費が占める割合も比較的大きいので、平成24年度に購入する合成・測定試薬及びガラス器具(合成・測定)に合算して使用することを計画している。特に平成23及び24年度に確立された合成法をスケールアップして行うための合成薬品及びガラス器具の購入にも使用する計画である。 平成23年度に購入した2)の基礎的な光物性評価及び分子内電荷分離状態の発現過程や寿命の短い不安定ラジカル種を観測するための電気化学システムを、グローブボックスに設置するための消耗品購入を計画している。 研究の進捗状況によって多少の変更はあるが、研究成果の学会発表を年に1回から2回程度を、研究打合せ等についても年に1回程度を予定している旅費、研究成果発表のための学術雑誌への投稿料及び校閲料、合成した試料の低温での単結晶X線解析や表面分析(STM等)のための基盤制作費等に使用する予定である。
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