研究課題
昨年度よりターチオフェンのすべてのCH部分にキノメチドが置換されたオクタキノターチオフェンに取り組んでいたが,今年度は前駆体のポリフェノール体の酸化反応を系統的に調べることで,オクタキノ体の合成の困難さを明らかにすることができた。反応様式の異なる3種の酸化剤(DDQ,アルカリ性フェリシアン化カリウム,五塩化アンチモン)をテトラフェノール体,ヘキサフェノール体,オクタフェノール体にそれぞれ作用させて生成物を分析した。また五塩化アンチモンについては滴定実験を行い,反応をUV-Visスペクトルで追跡した。その結果,フェノール部位の数が増えるほど,反応中間体として重要な役割を果たすチエノキノイド構造がとり難くなることがわかった。オクタフェノール体においてはチエノキノイド構造を全く検出することができず,分子両末端のチオフェン環α位のフェノール部位と,残りの6つのβ位フェノール部位との反応性に差がないと言える。その一方で,五塩化アンチモンを酸化剤とした場合には,目的のポリキノ体は生成せず,テトラフェノール体,ヘキサフェノール体からはチエノキノイド構造が得られた。この原因は,五塩化アンチモンがルイス酸性を持つために,酸化によって生成したチエノキノイド体のカルボニル基に五塩化アンチモンが配位することでそれ以上の酸化が妨げられているためと考えられる。さらに,ポリアニオン種のサイクリックボルタモグラムを詳細に解析することで,オクタキノターチオフェンが合成できないのは,中間体であるキンクキノン型のチエノキノイド構造が本質的に不安定であるためと結論付けられた。不安定さの理由としては,過大な立体障害に加えて,多数の芳香環がキノイド構造をとることによる芳香族共鳴安定化の低下が挙げられる。
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