本研究の主要な対象化合物骨格はリンイリドを含む6員環共役化合物、λ5-ホスフィニンのうち、2,6位の電子吸引基により強い蛍光を発する特異な化合物群である。本研究の対象化合物合成のために原料として必要となる置換ホスフィンの自在合成法については、現在もより効率よい手法への改良を続けているが、昨年度までに概ね確立した部分について既に発表した。この有機リン化合物合成法を駆使して開発した新しいホスフィニン合成反応により、ホスフィニン3,4位、およびリン原子上に様々な置換基を導入した誘導体の合成に成功した。既に、昨年度までに合成した化合物については蛍光化合物としての物性評価を行い、その発光波長への置換基効果を明らかにすることができたものの、蛍光量子収率は期待したほど高い値ではなく、高効率発光のために分子設計の改良が必要であった。 本研究最終年度は、蛍光量子収率向上を目指して設計した対称型ホスフィニンについて、これまでに明らかにした知見から置換基効果の大きい4位置換体をターゲットとして合成法開発を検討した。その結果、特異なベンジル側鎖脱離を伴う新しい対称型ホスフィニン環の合成法を見出すことができた。この反応により得られた様々な対称型4位置換ホスフィニンの蛍光物性を測定したところ、期待通り非対称体と比較して蛍光量子収率がおおよそ2桁向上し、最高60%程度の量子収率を示す高発光誘導体を見出すことができた。また、置換基効果による発光波長の変化も観測され、今後の物性チューニングと応用の可能性を示すことができた。 一方、リンイリド含有共役複素環化合物の新規な変換反応開発も継続して行い、λ5系からλ3系への変換反応を確立することができた。
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