研究課題/領域番号 |
23550074
|
研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
塩塚 理仁 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70293743)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | ルテニウム錯体 / 白金錯体 / 超分子金属錯体 / 自己組織化 / 光励起電荷分離状態 / りん光 |
研究概要 |
本研究課題の最終目的は、我々が先に報告した光機能性超分子錯体Ru(II)-M (M=Au(I), Pt(II))を金基板上に自己組織化させた新規なルテニウム(II)ポリピリジル錯体と有機金属結合により一次元的に配列させ、「光応答性複合超分子錯体の金属基板上への配列制御」を確立することにある。この目的の第一段階として、まずは光エネルギー捕集機能を有する光機能性超分子錯体の合成と光物性の解明を行うことが重要である。また、チオフェノール部位を組み入れたルテニウム(II)ポリピリジル錯体を新たに合成し、金基板上への自己組織化膜の形成法を確立することが本研究の重要なもう一つの課題である。最終段階では、これまで報告例のない2種の金属錯体ユニットから構成された光応答性複合超分子金属錯体を金属基板上へ自己組織的に配列制御する方法論の確立を目指している。 本年度の研究では、複合3核錯体から更に超分子化した複合5核錯体の合成法と単離精製法の研究に重点を置いた。そして、以前に単離に成功した複合3核錯体Ru(II)-Pt(II)-Ru(II)で得られた分光学的な結果や電気化学特性と複合5核錯体Ru(II)-Pt(II)-Ru(II)-Pt(II)-Ru(II)の種々の測定結果について比較検討することを主目的に研究を進めた。これら両複合錯体について、発光スペクトル測定、発光量子収率、フランクコンドン解析、電気化学測定、時間分解発光スペクトル測定、過渡吸収スペクトル測定を行うことにより、複合5核錯体内のルテニウム錯体ユニット間におけるエネルギー移動および電荷分離状態の形成に関するより詳細な知見を得ることができた。更に、少量ではあるが、更に繰り返し単位を成長させた7核超分子金属錯体Ru(II)-Pt(II)の単離に向けて現在も研究を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までは、出発物質であるルテニウム錯体や数種類の繰り返し単位からなる超分子金属錯体の混合物から目的とする多核錯体を単離精製する場合に、セミ分取用の逆相カラムを用いたHPLC法を利用していた。この方法では、カラム分離能が低いために大学院生と学部4年生が多くの時間を費やして繰り返し精製することで目的物を得ていたが、本年度は新たな分取クロマトシステムを導入できたことから5核複合錯体の単離精製に成功することができた。精製のための様々なカラム条件検討を行った結果、残念なことにRu(II)- Au(I)複合5核錯体は酸や光に対してかなり不安定で精製途中で分解してしまうことが推定された。しかしながら、Ru(II)-Pt(II) 複合5核錯体は安定に単離することができ、種々の分光測定および電気化学測定により光励起状態下における電子移動過程を推定することができた。現在は、これらの結果を踏まえてRu(II)-Pt(II)複合超分子金属錯体を中心に更なる複合超分子の単離を試みている。 また、片方にエチニル部位を有するフェナントロリン配位子含むルテニウム(II)ポリピリジル錯体を金基板上に自己組織化させる研究についても本年度進めてきた。この目的に合ったフェナントロリン配位子である3,8-diethynylphenanthrolineの片方にチオフェノール基を導入した配位子を新規に合成し、この配位子を一つ含むルテニウム(II)ポリピリジル錯体を合成した。今後は、この錯体を用いて、金基盤上にチオール型の自己組織化膜を形成することで超分子金属錯体の配列制御に向けた第一段階となる末端金属錯体の固定化に関する研究を行う計画である。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、片方にチオフェノール基を導入したフェナントロリン配位子を一つ含んだルテニウム(II)ポリピリジル錯体を用いて、金基盤上にチオール型の自己組織化膜を形成するための条件検討を行うことから始める。金基板上に固定化された錯体分子のAFM等を用いた表面観察を行い、電気化学的な物性測定等による単分子膜の物性を学内の物性研究グループと協力して展開していく予定である。また、学内共同利用装置として、ナノ走査プローブ顕微鏡も利用できることから試料の表面電位や伝導性についても解明したい。 また、繰り返し単位を成長させた7核超分子金属錯体Ru(II)-Pt(II)を単離し、複合5核錯体との光物性に関する比較検討を行う予定である。これにより光機能性超分子細線として機能する場合のナノメートルレベルでの光電子移動過程に関するメカニズムについて幾分かの推定が可能となる。 最終年度には、金基板上に規則正しく配列されたチオフェノール部位を有するルテニウム(II)ポリピリジル錯体を出発点とする白金(II)ジエチニルフェナントロリン錯体ユニットを超分子導線として持つ光機能性複合超分子錯体Ru(II)-Pt(II)の構築を目指す。この配位高分子に近い超分子錯体システムを金属基板上で配列する方法を確立することは、約10ナノメートル幅の金配線基板上で超分子導線を固定化するシステムを作り出す本研究構想の最終目標へと研究を発展させることにつながる。超分子金属錯体の合成及び金基板上への超分子錯体の導入については申請者のグループが行い、基板表面における超分子金属錯体の配列構造に関する観察や電導率の光応答性に関しては物性研究グループとの共同作業として行う予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の中心となる支出は、平成24年度の研究計画に従って、新規金属錯体の合成に必要な試薬等の購入が中心であり、特別な装置を用いる測定に関しては共同研究先の研究室に出向して行う計画である。かなり高額なナノメートルレベルでフラットな金基板が単分子膜のAFM観察や基板を電極とした電気化学測定に必要であるが、計画しているルテニウム錯体を用いた自己組織化単分子膜形成に必要な金基板に関しては、学内共同研究者が蒸着装置により作成した金基板を使用できるように確約している。 また、昨年度の研究成果である複合3核錯体Ru(II)-Pt(II)-Ru(II)と複合5核錯体Ru(II)-Pt(II)-Ru(II)-Pt(II)-Ru(II)の非常に興味深い分光学的な結果については、本年度開催される国際会議で発表する予定である。そして、国内会議等では片方にチオフェノール基を導入したフェナントロリン配位子を持つルテニウム(II)ポリピリジル錯体とこの錯体を用いって金基板上に作成した自己組織化膜の物性に関して報告する予定である。
|