研究課題/領域番号 |
23550074
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
塩塚 理仁 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70293743)
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キーワード | ルテニウム錯体 / 白金錯体 / 超分子金属錯体 / 自己組織化 / 光励起電荷分離状態 / 分子伝導 |
研究概要 |
本研究課題の初年度に行った光エネルギー捕集機能を有する光機能性超分子錯体Ru(II)-Pt(II)-Ru(II)及びRu(II)-Pt(II)-Ru(II)-Pt(II)-Ru(II)の合成と光物性の解明を中心とした研究結果により、光励起後に生成する複合錯体内のルテニウム錯体ユニット間におけるエネルギー移動および電荷分離状態の形成に関するより詳細な知見を得ることができた。そして我々は最終目的として、これまで報告例のない2種の金属錯体ユニットから構成された光応答性複合超分子金属錯体を金属電極間へ自己組織的に配列制御する方法論の確立を目指している。そのための次なる研究ステップとして、金属電極基板とルテニウム錯体分子との接合法を確立する必要があった。 そこで本年度の研究は、2種のチオフェノール部位を組み入れたルテニウム(II)ポリピリジル錯体を新たに合成し、金基板上への自己組織化膜を形成する方法の確立を主目的に研究を進めた。まず、これら新規なルテニウム錯体を設計及び合成し、一般的な各種測定結果より目的物の同定を行った。そして、金基板上への自己組織化膜形成の条件検討を行い、電気化学測定及び顕微ラマンスペクトル測定を行うことによりルテニウム錯体が比較的密な状態で金基板上に自己組織化膜を形成していることを示す結果を得ることができた。 更に現在、未確定な部分はあるが、これらオフェノール部位を組み入れたルテニウム(II)ポリピリジル錯体と白金(II) 錯体ユニットとの連結を想定した新規なPt(II)-Ru(II)-Pt(II)の合成を計画し、現在も研究を進めている。そして、最終的な光機能性超分子錯体Ru(II)-Pt(II)を金電極基板間に自己組織化させた「光応答性複合超分子錯体の金属基板上への配列制御」を確立することを目指して研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度から開始始めていた片方及び両方のエチニル部位にチオフェニル基を結合させたフェナントロリン配位子の合成とそのルテニウム(II)ポリピリジル錯体の合成法を確立し、生成物の同定及び溶液中における光物性及び電気化学的性質について明らかにした。そしてこの2種のルテニウム錯体を用いて、マイカ上に形成した100nm厚の比較的フラットな金蒸着膜を金電極基板として、チオール型の自己組織化膜(以下、SAM)を形成する条件検討を行い、超分子金属錯体の配列制御に向けた第一段階となる末端金属錯体の固定化に関する研究を行った。 研究に用いた新規なルテニウム錯体の精製にはODSカラムを用いて条件検討を行った結果、不純物を除くことができた。精製したルテニウム錯体を金基板と結合させる方法としては、最終的には少量のアンモニア水を加えてアセチル保護基の脱離を促進する方法を用いた。自発的な脱保護では反応速度が遅く3日程度かかるが、アンモニア水の添加によって1日でSAMが形成できることを明らかにした。得られたSAMの形成を確認する方法として、まずは電気化学測定を行った。特殊な測定セルを設計し、溶液中のデータと比較することによってSAMの形成及び表面被覆率を求めることができた。更に分光学的な測定結果を得るために顕微レーザーRamanスペクトル測定を行った。単純に考えると単分子膜のラマンスペクトルを得ることはかなり難しいが、今回用いているナノメートルレベルでテラス状の金基板上にSAM形成したことが幸いした。すなわち表面増強ラマンスペクトルとしてルテニウム錯体の配位子に起因する伸縮振動に由来するピークを観測することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、両方にチオフェノール基を導入したフェナントロリン配位子を一つ含んだルテニウム(II)ポリピリジル錯体を用いて、金基板上に固定化された錯体分子の伝導性をナノ走査プローブ顕微鏡や電気物性測定等を用いて、学内の物性研究グループと協力して研究を展開していく予定である。更に、学外の研究グループと協力して、ナノギャップ金電極間にジチオール型の架橋構造を有するルテニウム錯体分子素子を形成するための条件検討を行う。また、学内共同利用装置として、分子間力顕微鏡も利用できることから試料の表面構造についても考察したい。 合成的な側面としては、片方にチオフェノール基を導入したフェナントロリン配位子を一つ含んだルテニウム(II)ポリピリジル錯体を両端に有する超分子錯体AcSPh-Ru(II)-Pt(II)-Ru(II)-Pt(II)-Ru(II)-PhSAc の合成を目指す。そのための第一ステップとしてCl-Pt(II)-Ru(II)-Pt(II)-Cl の合成を行う必要があり、この合成法の確立を現在進めている。 最終的には、ナノギャップ金電極間にチオール型の架橋構造を有する超分子錯体SPh-Ru(II)-Pt(II)-Ru(II)-Pt(II)-Ru(II)-PhSが規則正しく配列された超分子導線の構築を目指す。超分子金属錯体の合成及びナノギャップ金電極間への超分子錯体の導入については申請者のグループが行い、伝導率測定や電導率の光応答性に関する計測は学外の研究グループとの共同作業として行う予定である。そして、配位高分子に近い超分子錯体システムを金属基板上で配列する更なる方法を確立し、約10ナノメートル幅のナノギャップ金電極間に超分子導線を固定化するシステムを作り出す本研究構想の最終目標へと研究を発展させる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の中心となる支出は、上記の研究計画に従って、新規金属錯体の合成に必要な試薬等の購入と特別な装置を用いる測定が必要なために共同研究を計画している学外の研究室に出向する旅費と思われる。かなり高額な装置を用いてナノギャップ金電極の作成やごく微弱な電流電位測定装置等の測定を共同研究先と協力して行う。それには、修士論文研究としてこの研究に従事している大学院生も含めて長期間の出張が必要である。ナノメートルレベルでフラットな金基板を用いたSAMのナノ走査プローブ顕微鏡を用いた表面観察や金基板を電極とした電気化学測定は学内共同研究者が蒸着装置により作成した金基板を使用して、学内的な共同研究で研究を進める。 また、昨年度の研究成果である金基板上に形成したルテニウム錯体のSAMから得られたラマンスペクトル測定の結果は、非常に興味深い分光学的な結果であるため本年度開催される討論会等で報告する予定である。
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