研究概要 |
本研究では、極性をもつベクトルである「分子スピン」が、立方対称のような高い対称性をもつ「単一分子磁石」分子にいかに収容されているのかを理解し、その磁気異方性の起源を解明するために、非弾性中性子散乱によって、スピン基底状態と励起状態のエネルギー準位を決定し、分子スピンの磁気異方性プロファイルに関する知見を得ることを最終的な目的とした。具体的には (1) 立方対称単一分子磁石の重水素化体の合成およびスピン準位の決定 (2) モデルハミルトニアンに基づくスピン副準位の算出 の2点に取り組んだが、 (1) に関しては目的多核錯体の単離の過程で困難に遭遇し充分な結果が得られなかった。一方、(2) に関しては、スピン副準位のスピンハミルトニアンに基づくシミュレーションにおいて、立方対称を満足する4次の磁気異方性スピンハミルトニアンを仮定し数値計算で対角化したところ、スピン多重度の増大にしたがって磁気異方性パラメーターが正のときには8本、負のときには6本の副準位が擬縮重した基底状態を与え、他の準位との間にはっきりとしたエネルギーギャップをもつこと、擬縮重した基底状態群は、古典的には異方性エネルギー曲面の等価な極小方向に対応するが、エネルギー障壁の高さが有限であるためトンネル分裂していることが判った。詳細にこのトンネル分裂挙動を見てみると、スピン多重度の変化に伴う周期的なパターンを示しており、これがWignerの回転行列を用いて構成した準古典的な基底状態群と関連していることが明らかとなった。これらの結果については、第13回分子磁性国際会 議(ICMM2012, Orlando, U.S.A.)において報告した。
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