研究課題/領域番号 |
23550080
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
鯉川 雅之 佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90221952)
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研究分担者 |
山田 泰教 佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20359946)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 環状錯体 / 包摂化合物 / フェリ磁性 |
研究概要 |
まずカプセル分子の構築素子となる環状三核錯体の合成に取り組み,置換基の異なる3種類の配位子を用いて三核Mn(III)錯体,三核Fe(III)錯体,およびMn-Feヘテロ金属錯体をシリーズで合成した。この中で,新たに合成に成功したMn-Feヘテロ金属三核錯体は,反応溶媒のDMF分子を三核錯体ユニットで挟み込んだカプセル分子集合体を形成していることをX線結晶構造解析により明らかにした。この構造は関連錯体中での初めての分子包摂の報告例である。次に,内包分子としてCr(III)錯体,Co(III)錯体を用意し,これらを包摂させるカプセル化実験を実施した。種々の錯体分子との反応を検討した中で,ヘキサアンミンコバルト(III)錯体との反応の場合に,MnとCoの含有率が6:1となる錯体が定量的に得られることをICP発光分析により確認した。この場合の内包イオンは反磁性のCo(III)であるためカプセル分子自体の磁気挙動に変化は期待できず,これらの挙動は,ESRおよびSQUID磁束計による磁気測定により,構築素子である三核錯体ユニットの挙動と同一であることが確認された。現在この分子集合体の結晶化を試みている。 これらの結果のうち後半のCo(III)包摂体の研究は第61回錯体化学討論会において報告済みである。また,前半のヘテロ金属錯体によるDMF包摂体の研究は本年9月に開催される錯体化学国際会議(スペイン)で発表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
環状三核錯体によるカプセル構造の構築を目指して研究を行い,結果として有機分子の包摂に成功した。これは包摂が可能であることの証明であり,今後包摂分子を選別していくうえでの大きな指標となる結果である。また同様に,金属錯体との分子集合体も確認したところではあるが,こちらは分子構造の同定にいたっていないため,引き続き検討を行う必要がある。これらの点を考慮して,おおむね順調であると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の結果に基づいて,本年度は包摂種を遷移金属化学種に絞り込んでカプセル分子を合成する。Co(III)錯体は何らかの集合体を形成することが判明しているため,今後は類似構造の錯種で常磁性種であるCr(III)錯体を用いたカプセル分子の合成に取り組み,その包摂状態を検証する。得られた合成試料は,SQUID装置により磁気挙動を測定して磁性材料としての有効性を評価する。単結晶化できる試料は構造-磁性の観点で議論できるが,結晶化できない試料においても構造・電子状態の情報を得るため,平成24年度購入予定備品であるCCDマルチチャンネル分光器や,既存設備であるESR装置を用いて包摂金属イオンと三核ユニット間の電子的相互作用を解析して磁気測定にフィードバックし,単分子磁石のような特異的な磁気挙動の発現を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
大きく分けて以下の3点に重点を置いて使用する。まず1点目は,備品としての光ファイバー分光器の購入である。単結晶化できる試料は構造-磁性の観点で議論できるが,結晶化できない試料においても構造・電子状態の情報を得るため,平成24年度購入予定備品として光ファイバー分光器を購入し,微量試料の反射スペクトル測定から錯体分子の電子状態を解析できるよう設備を整える。次に,消耗品である液体ヘリウムの購入である。これはSQUID測定時に必要となり,昨年度合成分も合わせて測定試料が増えているので購入量も昨年より多めになると予想される。最後に国外旅費があげられる。昨年度の成果をスペインで開催される錯体化学国際会議で発表するための旅費として使用する。
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