研究課題/領域番号 |
23550083
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
大胡 惠樹 東邦大学, 医学部, 准教授 (40287496)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 鉄(III) / ヘムタンパク質 / 電子密度分布解析 / ポルフィリン / スピン密度 / 電子配置 / 電子状態 / 磁性 |
研究概要 |
生体内には,その進化の過程で生き残ってきた,精巧にコントロールされた優れたメカニズムが数多く存在する.様々なヘムタンパクの中心に存在する"構造式としてはほぼ同じ分子であるヘム"が多くのタンパクの中で多様かつ優れた反応を担うことができる理由は,ヘムがもつ精密にデザインされたテーラーメードな環境により,多彩な電子状態変換を行なうからである.本研究の目的はヘムの持つpπ-dπの電子的な相互作用を計算化学及び分光化学的データの蓄積を用いて電子レベルで設計し,設計した分子の電子構造を最先端の結晶構造解析手法を用いて,直接的に明らかにすることである.既に,放射光を用いた実験的電子密度分布解析により,鉄-ポルフィリン間の電子的相互作用の直接観測に成功した.そのデータを現在解析中であり、電子密度を精密構造解析から実験的に求めることにより、ヘムやヘムモデル錯体の電子状態を知ることができる.結果として生体の中の触媒反応などのメカニズムに関して知見を得ることができ、その応用として新規機能性物質の開発に繋がっている.(1)新規に見いだされたS=3/2⇔S=5/2,S=3/2⇔S=1/2間の熱,光誘起スピンクロスオーバー及び電子配置のスイッチングを行なう錯体の合成、すなわち、金属周辺のcavityが小さく,フロンティア軌道の異なる一連の非平面化ポルフィリン,ポルフィリン類縁体鉄錯体を合成した.(2)温度,圧力,電場,光,磁場などの外部刺激を与えながらNMR, SQUID, EPR, Mossbauerなどを測定する為の装置の開発,構築を行い、その詳細な物性に関して有用な知見を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況に関しては、おおむね順調に進んでいるが、一部、震災の影響があり、計画を変更した部分がある.その一つは東海村に建設が進行していたJ-PARCの中性子線を使った、磁気構造に関する研究である.これらは震災のダメージにより、一時、建設がストップし、また利用も遅れている.しかしながら、少しずつ、利用に向けて復興が進んでいるので、近いうちに利用が可能になるであろう.その時期を見計らって、この部分に関しては準備を進め、研究を行なうため、予定よりも、研究の後部に移動させた.また、その影響もあり、23年度の科研費の利用は当初の予定より、大幅に抑えた形になっている.
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今後の研究の推進方策 |
23年度に合成したヘムモデル,外部刺激応答性スイッチング素子の放射光精密構造解析により,その電子状態の実験的直接観測を試みる.この電子密度解析によって中心金属d電子とポルフィリンのフロンティア軌道との相互作用が明らかになり,またその相互作用がスピン状態変化やヘムの非平面化と,どのように相関しているか明らかにすることができる.さらに,NMR, EPR, SQUID, Mossbauer,吸収分光を用いた外部刺激応答性の観測を行なう.主に温度,光,圧力,電場,磁場に対する応答を観測する.Gutlich, Hauserらによって報告されている鉄(II)錯体と同様のスイッチング挙動がヘムモデル錯体においても観測ができる可能性がある.また,ヘムタンパク質の実験的電子密度解析に挑戦する.ミオグロビン等の比較的分子量の小さいタンパクを対象に実験的電子密度解析を適用するための方法論を探索したいと考えている.ヘムモデル錯体の中性子散乱実験による直接的なスピン密度解析はJ-PARCの復興の様子に鑑みて,準備進行を調整する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
前述のように、震災の影響から、中性子回折実験に関する費用を残すため、それらの研究計画の後部に組み替えを行なうと同時に、研究費の使用も控えたが、平成24年度より全研究のうちの中性子回折実験部分の実験準備を進め、これらの研究への科研費の充当を行なう.化合物の合成(試薬、溶媒、合成用器具)等に使用する他、放射光を用いた実験的電子密度分布解析に必要な機器、ソフトウェア、コンピュータ購入に使用する.また、SPring-8, KEK, J-PARC,分子科学研究所等へ出向き、実験をするために必要な旅費を支出する予定である.また,現在までに明らかになっている結果の論文公開、国内、国際学会における発表などに必要な支出を行なう予定である.
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