研究課題/領域番号 |
23550083
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
大胡 惠樹 東邦大学, 医学部, 准教授 (40287496)
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キーワード | 鉄(III) / ヘムタンパク質 / 電子密度分布解析 / ポルフィリン / スピン密度 / 電子配置 / 電子状態 / 磁性 |
研究概要 |
ヘムタンパク質はポルフィリンを補欠分子としてもつが,活性中心にある分子はほぼ同じにも関わらず,その機能は非常に多岐に渡り,酸素の運搬や貯蔵,様々な基質の酸化,電子伝達,ヘム自身の酸化的分解などに関わっている. 炭化水素の酸化反応は重要であるが,化学的合成では環境負荷が高く,過酷な反応条件が必要である.しかし,生体分子は非常にマイルドな条件で簡単に行なっている.ほぼ同じ構造の補欠分子が多様かつ優れた反応を行なえる理由は,ヘムがもつ外場環境により,多彩な電子状態変換を行なうからである.これらの優れたメカニズムをバイオミメティクスの手法で生体外に取り出し,模倣利用することは,新たに化学合成的な手段を考案するより,はるかに優れており,効率的でかつ環境負荷も非常に小さい.そのためには,生体内と同様の環境の創出,及び電子状態の解明が鍵となる.本研究の目的はヘムの持つpπ-dπの電子的な相互作用を計算化学及び分光化学的データの蓄積を用いて電子レベルで設計し,設計した分子の電子構造を最先端の結晶構造解析手法を用いて,直接的に明らかにすることである.本研究において,実験的電子密度分布解析により,鉄-ポルフィリン間の電子的相互作用の直接観測に成功し,その結果を分光学的データ,及び,計算化学の結果と比較検討した. ①外部刺激に応答する新規機能性物質(S=3/2⇔S=5/2,S=3/2⇔S=1/2間のスピンクロスオーバー錯体)すなわち,一連の非平面化ポルフィリン,ポルフィリン類縁体鉄錯体を合成した. ②温度,圧力,電場,光,磁場などの外部刺激による応答をNMR, SQUID, EPR, Mossbauerなどを用いて詳細に測定し,非常に面白い知見を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況に関しては,おおむね順調に進んでいる.光,温度,圧力,磁場に対する非常に面白い応答が観測され,その電子状態に関して知見が得られている.しかしながら,一部,J-PARCの中性子線を使った,磁気構造に関する研究が遅れている.その理由は震災のダメージにより,J-PARCの物質・生命科学実験施設の装置等の建設がストップし,また利用も遅れていることにある.しかしながら,これらの復旧が進み利用も始まり,ビームの強度も出てきたので,時期を見計らって,この部分に関しては準備を進め,研究を行なう.また,これらの影響と共に,本研究者の所属機関の変更もあり,新所属機関においての本研究の遂行に必要な研究機材などを整える必要性から,平成24年度の科研費の利用は当初の予定より,大幅に抑えた形になっている.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに合成したヘムモデルに様々な外部刺激を加えることによって,電子状態変換を行うことに成功した.この過程はNMR, EPR, SQUID, Mossbauer,X線結晶構造解析など手法で明らかにした.また,これらの化合物の放射光精密構造解析により,その電子状態変換過程の直接観測を試みる.さらに,放射光軟X線吸収分光,発光分光,を用いて,さらなる知見を得るための実験を行う.鉄(III)錯体の励起状態緩和は非常に速いため,通常の条件では観測することが難しいが,ダイアモンドアンビルを用いて,超高圧下における光誘起の電子状態変換などを行うことにより観測できる可能性がある.すなわち,Gutlich, Hauserらによって報告されている鉄(II)錯体と同様のスイッチング挙動がヘムモデル錯体においても観測ができる可能性がある.ヘムモデル錯体の中性子散乱実験による直接的なスピン密度解析はJ-PARCの復興の様子に鑑みて,準備進行を調整する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
現在までの達成度の項で述べたように,平成24年度から平成25年度にかけて,所属機関の変更があった.これらの状況から,新所属先でこれらの研究を遂行するのに必要な機器備品を購入する必要性から,24年度の科研費の使用を控えた.また,平成25年度より中性子回折実験部分の実験準備を進め,これらの研究への科研費の充当を行なう.化合物の合成(試薬,溶媒,合成用器具)等に使用する他,放射光を用いた実験的電子密度分布解析に必要な機器に使用する.また,SPring-8, KEK, J-PARC,分子科学研究所等へ出向き,実験をするために必要な旅費を支出する予定である.また,現在までに明らかになっている結果の論文公開,国内,国際学会における発表などに必要な支出を行なう予定である.
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