研究課題/領域番号 |
23550083
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
大胡 惠樹 帝京大学, 大学院医学研究科, 教授 (40287496)
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キーワード | 鉄(III) / ヘムタンパク質 / 電子密度分布解析 / ポルフィリン / スピン密度 / 電子配置 / 電子状態 / 磁性 |
研究概要 |
ヘムモデル錯体は,環周辺の置換基や配位子場を適切に調節することによって,特殊な電子状態を持つ化合物になる.すなわち,これらの錯体は中心金属の鉄において中間スピンという珍しいスピン状態をもつために,様々な外部刺激応答性をもつことが明らかになった.具体的には,外部刺激として,熱,光,圧力,電場,磁場などを用いて,化合物の電子構造の変換を行い,マテリアルとして応用する手法を開発してきた.スピンクロスオーバーを含む電子配置変換のメカニズムは主に,分子構造変化に伴う,電子状態の変化であることが明らかになっている. これまでに単結晶構造解析及び粉末構造解析によって,その電子状態変化に伴う,構造の変化,もしくは構造の変化に伴う電子状態変化を追跡してきた.本年度までの実績の概要は以下の通りである. ・外部刺激応答型新規機能性物質(中間スピンを基軸とするスピンクロスオーバー錯体),すなわち,一連の非平面化ポルフィリン,ポルフィリン類縁体鉄錯体を合成した. ・熱,光,圧力,電場,磁場などを用いて,化合物の電子構造の変換を行い,1H-NMR, 13C-NMR, SQUID, EPR, Mossbauer,X線結晶構造解析などを用いて詳細に明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までの進捗状況に関しては,やや進行が遅れている.その理由は本研究者の所属の異動に伴う研究基盤の整備等に時間がかかり、当初予定していた形での遂行が難しかったからである.特に外部研究機関への出張や成果発表のスケジュールの調整が困難であった.平成25年度より所属の帝京大学における教育研究の基盤整備は概ね整ったため、平成25年度末からは順調に研究の遂行が可能になった.
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今後の研究の推進方策 |
合成した中間スピンを基軸としたヘムモデルスピンクロスオーバー錯体に外部刺激を加え,多彩な電子状態変換を行うことに成功した.この詳細をNMR, EPR,SQUID, Mossbauer,X線結晶構造解析など手法で明らかにした.今後の研究の推進方策としては,放射光精密構造解析,軟X線吸収分光ー発光分光法により,その電子状態変換過程の直接観測を試みる.鉄(III)錯体の励起状態緩和は非常に速いため,通常の条件では観測することが難しいが,超高圧下においては光誘起の電子状態変換を観測できる可能性がある.すなわち,Gutlich, Hauserらによって報告されている鉄(II)錯体と同様のLIESST挙動がヘムモデル錯体においても観測ができる可能性がある.これらの研究の発展的応用、総まとめを平成26年度に行う予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度が科学研究費助成金の最終年度であったが、本研究者の所属の変更に伴って、研究環境の整備に時間がかかってしまった。そのため、当初予定していた形での予算の執行が難しかったため、期間の延長を申請し、許可が下り、現在に至っている. 次年度における未使用額の使途に関しては、化合物の合成(試薬,溶媒,重溶媒,合成用器具,シリカゲル,アルミナ)等の消耗品に使用する他,放射光を用いた実験的電子密度分布解析に必要な機器に使用する.また,SPring-8, KEK, J-PARC,分子科学研究所等へ出向き,実験をするために必要な旅費を支出する予定である.また,現在までに明らかになっている結果の論文公開,国内,国際学会における発表などに必要な支出を行なう予定である.
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