研究実績の概要 |
本研究の目的はへムの持つ pπ-dπの電子的な相互作用を計算化学及び分光化学的データの蓄積を用いて電子レベルで設計し,設計した分子の電子構造を明らかにすることである.本研究において開発した鉄(III)ヘムモデル錯体は,環周辺の置換基や配位子場を適切に調節することによって,特殊な電子状態を持つ化合物になることが明らかになった.すなわち,これらの錯体は中心金属の鉄において中間スピンという珍しいスピン状態をもつために,様々な外部刺激応答性をもつことが明らかになった.具体的には,外部刺激として,熱,光,圧力,電場,磁場などを用いて,化合物の電子構造の変換を行い,マテリアルとして応用する手法を開発してきた.スピンクロスオーバーを含む電子配置変換のメカニズムは主に,分子構造変化に伴う,電子状態の変化であることが明らかになっている. これまでに単結晶構造解析及び粉末構造解析によって,その電子状態変化に伴う,構造の変化,もしくは構造の変化に伴う電子状態変化を追跡してきた.研究の成果の概要は以下の通りである. ・外部刺激応答型新規機能性物質(中間スピンを基軸とするスピンクロスオーバー錯体),すなわち,一連の非平面化ポルフィリン,ポルフィリン類縁体鉄錯体を合成した. ・熱,光,圧力,電場,磁場などを用いて,化合物の電子構造の変換を行い,1H-NMR, 13C-NMR, SQUID, EPR, Mossbauer,X線結晶構造解析などを用いて詳細に明らかにした. ・放射光電子密度分布解析を行うことにより、開発したヘムモデルの詳細な電子状態を明らかにした.これらの知見により、生体における触媒の反応機構に関して、興味深い仮定を見出した.
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