研究課題/領域番号 |
23550084
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
和田 亨 立教大学, 理学部, 准教授 (30342637)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 水の酸化反応 / エネルギー変換 / ルテニウム錯体 |
研究概要 |
環境・エネルギー問題の観点から、次世代のエネルギー源として期待されている水素を製造する最もクリーンな方法は太陽光で水を水素と酸素に完全分解する反応である。可視光による水の完全分解の量子効率は低く、その原因の一つは水の酸化反応にあると考えられている。そこで本研究では、水の4電子酸化反応を熱力学の平衡電位付近で触媒する複核遷移金属錯体触媒を開発することを目的とする。 我々はこれまでにビス(ターピリジル)アントラセン(btpyan)で架橋された[Ru2(Cl)(bpy)2(btpyan)]3+(bpy = ビピリジン)が水の酸化反応に対して触媒活性を示すことを明らかにしてきた。23年度はさらに高活性な触媒系の構築を目指し、二座配位子について検討を行った。bpyの代わりにテトラメチルエチレンジアミン(tmen)を導入した錯体[Ru2(Cl)(tmen)2(btpyan)]3+を合成したところ、酸化電位が300 mVほど負側へシフトすることが分かった。さらに[Ru2(Cl)2(tmen)2(btpyan)]3+もCe(IV)を酸化剤とする水の酸化反応に対して触媒活性を示すことが分かった。 光合成の酸素発生中心を模倣し、架橋配位子にキノンを組み込んだビス(ターピリジル)アントラキノン(btpyaq)を開発し、この配位子を用いて錯体[Ru2(Cl)(bpy)2(btpyaq)]3+を合成した。サイクリック・ボルタンメトリー測定から、この錯体中におけるキノン部位は酸化還元活性中心として働き、光合成酸素発生中心におけるチロシン残基のような機能を果たす可能性が示唆された。今後、酸素発生反応における酸化還元中心の影響について検討していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度は計画通りに、電子供与性の大きな二座配位子を有する複核ルテニウム錯体の合成に成功した。水の酸化反応に対して、これまでに合成したbpy錯体とtmen錯体の触媒活性の比較については、次年度以降に行う予定である。また、。架橋配位子のキノン部位を導入した錯体は研究計画書には無かったものであるが、自然界の光合成で行われている酸素発生と同様のメカニズムを人工触媒に組み込むという観点から興味深い結果が得られつつある。光合成の分子レベルでのメカニズム解明にも寄与するのもと考えている。また、本研究は半導体光触媒と錯体のハイブリッド触媒を開発することを目的としている。架橋配位子のキノン部位を導入した錯体は、キノン部位の化学修飾が容易であることから半導体光触媒と錯体との結合を容易に行うことが可能になる。23年度は、本研究目的を達成する上で土台となる成果は得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
23年度は複核ルテニウム錯体に中性で電子供与性が大きいtmenを導入することに成功した。24年度はさらにアニオン性の電子供与性配位子であるアセチルアセトナト(acac)を導入した錯体の合成を行う。bpy,tmen,acacを有する錯体の触媒活性と反応機構について比較、二座配位子による反応性の制御が可能であるか検討する。特に、配位子のσドナー性とπアクセプター性が、RuO-ORu結合形成機構にどの様な景況を与えるか明らかにするために、電気化学的な酸化を行いながら反応中間体の共鳴ラマンスペクトル測定を行う。 また、btpyanqを架橋配位子とする複核錯体[Ru2(Cl)(bpy)2(btpyanq)]3+の酸化還元挙動と水の酸化に対する触媒活性について詳細な検討を行う。これまでの検討から[Ru2(Cl)(bpy)2(btpyanq)]3+のキノン部位の酸化還元電位は-0.1 V (vs. Ag/Ag+)であることが明らかとなっている。この酸化電位を水の酸化反応が進行する電位付近まで引き上げることによって、水の酸化反応に直接関与するようになる。そこで、キノン部位をフェノールへ変換する。これにより酸化電位の上昇がし、光合成酸素発生中心におけるチロシン残基のフェノール基と同様の機能が期待される。さらにはフェノール上に置換基を導入して、酸化還元電位を制御し、金属中心に直接結合していない酸化還元部位が水の酸化反応に果たす役割を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度はガスクロマトグラフィー分析装置を購入し、酸素の定量ならびに合成した配位子の同定を行っている。平成24年度は「今後の研究の推進方策」にあるとおり、新たな二核錯体の開発とその触媒活性の解明を主に計画している。従って、本年度の研究費は錯体合成に必要となる三塩化ルテニウム等の試薬の購入に使用する。また、研究成果を発表するため論文投稿(Chemical Communication誌等)と学会発表(日本化学会春季年会、錯体化学会討論会、酸化反応討論会)を予定している。
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