研究課題
本研究では、人工光合成の実現に重要な反応である水の4電子酸化反応を熱力学の平衡電位付近で触媒する複核錯体触媒を開発することを目的とする。さらに酸素発生触媒を固体光触媒に化学結合したハイブリッド触媒の開発を目指し研究を行ってきた。すでに我々が酸素発生触媒として開発したビス(ターピリジル)アントラセン(btpyan)で架橋された[Ru2(Cl)(bpy)2(btpyan)]3+(bpy = ビピリジン)に対して様々な二座配位子を導入し、水の酸化反応に対する触媒活性について検討した。その結果、テトラメチルエチレンジアミン(tmen)を導入したところ、酸化電位が300 mVほど負側へシフトすることが分かった。この錯体はCe(IV)を酸化剤とする水の酸化反応に対して触媒活性を示すことが分かった。 このことから強い電子供与性を有する二座配位子により酸化電位を負側へシフトすることが示唆された。これをうけ、配位子と中心金属間にRu-C結合を有するルテニウム錯体の合成を行った。二核錯体の合成は非常に困難であるため、単核ルテニウム錯体で合成したところ、bpyにくらべて600 mVも負側で酸化をうけ、[Ru(III)(bpy)3]3+を酸化剤とする水の酸化反応を触媒することを明らかにした。また、[Ru2(Cl)(bpy)2(btpyan)]3+を触媒とする水の酸化反応では、反応の初期課程に架橋部位であるアントラセンがアントラキノンへ酸化されることを明らかにした。触媒の内部空間に水分子が取り込まれる上でアントラキノンが効果的に働いていると考えられる。さらに、アントラセン上にリン酸基を導入したルテニウム錯体を合成し、これをITO透明電極上に修飾した。ITO電極表面に1.2x10-12 mol/cm2ほどの錯体分子の結合が確認された。本研究では当初の目的を達成することはできなかったが、平衡電極電位付近で水を酸化するために触媒に必要とされる要点を見いだすことができたと考える。
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