平成24年度において、サレンマンガン(III)錯体をアルカリ水溶液で処理すると、速やかに2量化反応が進行して、ジオキソ架橋2核マンガン(IV)錯体が生成することを見いだした。平成25年度は、この酸化反応の反応機構について詳しく検討した。 酸素同位体を用いた実験を行ったところ、ジオキソ架橋として、酸素分子だけでなく、アルカリ水溶液の水酸化物イオンに由来する酸素原子が導入されていることがわかった。さらに犠牲還元剤としてベンジルアルコールを添加すると、アルカリ水溶液からの酸素原子導入が完全に抑制されることが判明した。以上のことから、水酸化物イオンが電子源として働いて、酸素分子を活性化していることが明らかになった。 さらに反応系中に異なる酸化電位を持つベンゾキノン類を添加したところ、酸化電位の高いクロラニルをわずか1等量添加することによって、ジオキソ架橋2核マンガン(IV)錯体の生成が完全に抑制されることがわかった。また脱気条件で本反応を行うと、マンガン(III)錯体がマンガン(II)錯体に1電子還元されることもわかった。以上の結果から、マンガン(III)錯体と水酸化物イオンとの反応で強力な還元力を持つ反応活性種が生成していることが示唆された。 以上の結果は、酸素分子の活性化により高原子価金属オキソ錯体を生成するルートを確立する上で非常に重要な結果であると考えている。現在、論文投稿の準備を進めている。
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