昨年度まで検討してきた単一くし形電極をマイクロHPLCの検出器として使用しその性能を評価することを目的とした。そのために,単一くし形電極とマイクロ充填カラムを搭載したマイクロHPLCデバイスを作製し,このデバイスでカテコールアミン類などを分離・検出した。単一くし形電極を構成する単位電極の数の増加は感度の向上につながる一方で,電極総長さの増大につながり,それがクロマトグラムピークをブロードにすることが予想される。しかし,単位電極数が異なるデバイスを用いた実験から,電極数24(電極総長さが約 6 mm)まではピーク幅に影響しないことを確認した。このことは,電極総長さの増大が直ちに分離度や分離効率に影響せず,単一くし形電極がマイクロHPLCの検出器に適用可能であることを示している。 単一くし形電極の電流応答をモデル化する目的で電極の形状因子(電極間距離,電極数)と電流値の関係について検討した。電流値は電極表面の濃度勾配を面積分することで得られるため,各種デザインの電極で濃度勾配を数値シミュレーションすることにより電流値を算出した。その結果,電極間距離を変えたときの電流応答の変化は実験結果と一致した。また,最大電流を与える最小電極間距離と拡散係数の関係については,実験的に明らかにすることは困難であったが,数値シミュレーションにより最小電極間距離は拡散係数に依存しないことを明らかにすることができた。なお,この結果はこのような物質にも同じデザインの単一くし形電極を適用できることを示している。単位電極の数と電流値の関係については,実験結果とシミュレーションは部分的に一致し,実験系のさらに正確な再現がシミュレーションに必要であることが示唆された。 以上,単一くし形電極についてモデル化にはさらなる検討が必要であるが,チップ分析,特にマイクロHPLCの検出器として有用であることを実証した。
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