前年度までの検討により、ボロン酸基およびアミノ基を含有する薄膜に様々な色素を複合化する手法を用いて、糖濃度に迅速に応答して明瞭かつ多彩な色調変化を示す糖検出チップを作製できることが明らかになった。一方、このセンサーはグルコースに対する応答感度が相対的に低いことが改善点として挙げられた。そこで本研究では、ボロン酸基に種々の置換基を導入して糖に対する親和性の変化を図り、グルコースに対する高感度なセンサーの実現を目指した。 実際に導入した置換基は、ヒドロキシメチル基とクロロ基である。ヒドロキシメチル基を有するボロン酸モノマーの合成は、5-アミノ-2-ヒドロキシメチルフェニルボロン酸を塩化アクリロイルと反応させて行った。クロロ基を有するモノマーの場合は、3-アミノ-4-クロロフェニルボロン酸を同様に反応させて合成した。次に、得られたモノマーを用いてガラス基板上へ糖応答性薄膜を作製し、種々のアニオン性色素で着色した。 着色した薄膜をグルコース水溶液に浸漬し、薄膜の色調変化を紫外可視分光光度計により時間ごとに測定していった。その結果、ヒドロキシメチル基を有するボロン酸を用いた場合に、グルコースに対する応答感度が大幅に向上する一方、クロロ基を有するボロン酸の場合には応答感度の目立った変化が見られないという結果が得られた。そこでヒドロキシメチル基を有するボロン酸モノマーを用い、ボロン酸とアミンの比率がグルコース応答性に及ぼす影響を検討した。その結果、ボロン酸基とアミノ基の比率が2:1の場合に最も高い感度が得られることが明らかになった。 以上の検討により、グルコースに対して高感度に応答し、迅速かつ明瞭多彩な色調変化を示す糖検出チップが実現できた。
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