研究概要 |
本研究は、5位で連結したビス-8-キノリノール誘導体を新規合成し、それらの錯形成能および分光特性を明らかにし、新規分析試薬としての有用性を示すことを目的とした。そのため、(1) 新規ビスキノリノール誘導体の合成、(2) それらの基本特性評価、(3) 金属イオンとの錯形成能評価、および(4) 抽出試薬特性評価の4課題を設定し研究を進めた。 (1) 連結メチレン鎖長の異なる3種類のビスキノリノールを新規合成し、(2) それらのNMR、および吸収スペクトルのpH依存性より決定した酸解離定数から、配位子としての基本特性を評価した。結果、配位子単独では、いずれもビス体のキノリノール環間の分子内相互作用がなく、モノ体と同様な特性を有することがわかった。(3)4配位(Pd, Pt)、6配位(Al)、および8-10配位(希土類)との錯形成においては、ビス体はpKaがモノ体と同様であるにもかかわらず、キレート効果の増大によりモノ体よりも錯形成能が高く、またモノ体では錯形成しないpH領域で錯形成した。その結果、(4)モノ体よりも高い抽出率を示した。また、錯形成および抽出率に対するメチレン鎖長依存性はみられなかった。 以上より、ビス体はキレート効果の増大により、モノ体よりは優れた特性を有することがわかった。しかしながら、ビス体の溶解度が低かったため、溶媒抽出へ応用するためには溶解度を向上させるための分子設計が必要であることがわかった。逆に、低溶解性を利用して、ビス体を担持した固相抽出へ応用できることを示した。また、Pd錯体では、ビス体を架橋配位子とする複核錯体が生成し、NMRおよび吸収スペクトルよりキノリノール環間の相互作用が確認できた。その構造決定ならびに構造と分光特性の関係を明らかにすることが、今後の課題である。
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