研究概要 |
陽イオン交換樹脂中における四級アンモニウムイオンの交換反応および金属イオンの水和状態の研究を行い、官能基周りの空隙体積の概念をより確実なものとすることができた。 強塩基性陰イオン交換樹脂(-R+,Br-)上でのジカルボン酸(dc2-)によるイオン交換に関する研究を年度内に完成させ、(-R+,Hdc-)および {(-R+)2,dc2-}に加えて、フマル酸では{(-R+)2,(Hdc-)2}が、高pHでは(-R+,dcNa-)が生成することを見出すとともに、「{(-R+)2,dc2-}の安定性が特定のアルキル鎖長のカルボン酸で極大を示す」という過去の報告が誤りであることを示した。また、(-R+,Hdc-)に対する{(-R+)2,dc2-}の安定性は、スペーサーの炭素数が小さいほど高いことを明らかにした。 一価のカルボン酸のイオン交換平衡を解析し、低交換容量・低架橋度の樹脂では選択係数は交換率に依存せずカルボン酸の炭素数と共に選択性が増加すること、高交換容量・低架橋度の樹脂では選択係数が交換率に依存し選択性はカルボン酸の炭素数に依存しないこと、高交換容量・高架橋度の樹脂では選択係数が著しく交換率に依存し、選択性はかなり低下することを見出した。また、無機イオンの選択係数は、交換されるBr-より選択性が高いイオンでは交換率の増加と共に増加し、低いイオンでは減少することを見出した。 高交換容量・低架橋度の樹脂上でのアクリル酸によるイオン交換は定量的に起こるが、過剰のアクリル酸の一部が中性の酸として分配することを物質収支から明らかにした。強酸性高分子電解質とは対照的に、弱酸性高分子電解質が樹脂表面以外でもイオン交換を起こすのは、このようなプロトンが樹脂内部で移動することによると考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究に必要な装置は既に完備しており、新たな装置の購入は行わない。一方で、平衡論的な議論を補うための分光学的な研究(EPMA, NMR, MASS)は共同利用の装置で行うため、装置の使用量をかなりの額見込んでいる。実質的にスタートするQCM測定では、消耗品がかなりの金額に達する予定である。成果を発表するために学会への参加を国内外で予定するとともに、公表論文の別刷り代も見込んだ。データがかなりの量となってきたため、必要に応じて研究補助の雇用を行う。前年度の繰越金49,728円および今年度予定額を合わせて、これらの使途に充てる。
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