研究課題/領域番号 |
23550093
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
湯地 昭夫 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60144193)
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キーワード | 高分子電解質 / イオン交換 / 水晶振動子重みセンサ |
研究概要 |
1.数種類のBr型陰イオン交換樹脂と異なる分子量のポリアクリル酸(PA)との間の相互作用を、Brイオン選択電極による電位差定量、コロイド滴定および赤外吸収スペクトルにより評価した。4.5KDaのPAの場合には単純なイオン交換だけが起こるのに対して、25kDaあるいは250kDaのように分子量が増加すると、イオン交換はほとんど起こらないが、溶存している炭酸イオンとのイオン交換を促進することが分かった。また、樹脂表面には、PAが高密度に吸着していることも明らかになった。 2.直鎖カルボン酸によるイオン交換平衡を解析した結果、交換基密度が低い樹脂での選択係数は交換率に依存せず一定で、炭素鎖の延長につれて、増加した。これに対して、交換基密度の高い樹脂での係数は、交換率の増加とともに減少した。これは水和による膨潤と架橋との競合によることが明らかになった。一方、選択係数の値は炭素鎖長にあまり依らなかった。このことから、官能基を持たない高分子の形成する疎水場が選択性の発現に大きな影響を与えていることを明らかにした。 3.これまでほとんど研究のない弱塩基性陰イオン交換樹脂に関する選択係数の評価を行い、強塩基性樹脂とは全く異なる挙動をとることを明らかにしつつある。 4.ジカルボン酸によるイオン交換平衡を解析した結果、1-型の選択係数は交換率が70%以下では一定であるのに対して、70%以上でむしろ増加する現象が観測された。これは、樹脂内部での水素結合形成に帰せられ、赤外吸収スペクトルによっても裏付けられた。この他に、中程度の長さの場合には、分子内水素結合も選択係数に影響を及ぼした。これに対して2-型の選択係数は炭素鎖長にあまり依存しないことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
移動度を有するイオン交換体での交換の動的な挙動を電位差測定により追跡した結果をJ. Electroanal. Chem.に発表した。また、モノおよびジカルボン酸によるイオン交換平衡の解明は完結して、樹脂内部における分子内及び間水素結合の存在を明らかにしており、既に投稿直前の状態である。更に、PAによる交換挙動はその分子量に著しく依存することが明らかになり、公表準備中である。以上の理由から、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ポリアクリル酸による交換については、酸の影響を検討して完結させる。弱塩基性樹脂に関する性能評価は、今年度半ばで完了の見込みである。本丸である水晶振動子重みセンサによる検出では、PDOTの累積層を薄くすれば、その濃度に比例してかなりのシグナルが得られることを確認しているので、その条件最適化を行う。また、弱塩基性樹脂での成果を踏まえて、センサの金表面をジメチルアルカンチオールで修飾した計測も試みて、PDOTの場合と比較検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
選択性の評価に関しては、既存の設備で対応する。弱塩基性樹脂上でのクラスタリングの可能性を明らかにするために、EPMAのマシンタイムを見込んでいる。また、水晶振動子重みセンサの使用が本格化するので、消耗品としてかなりの量の振動子を購入予定である。これらの成果を発表するために、国内外での学会発表のための旅費、論文発表のための別刷り代などを見込んでいる。
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