本研究では「油水界面は生体膜のモデル系になり得るか?」という命題に答えを出すため,生体膜により近いと考えられる自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer; SAM)および油水界面での電子移動を比較検討することによって,油水界面と生体膜の類似性と相違点を明らかにすることを目的とした。 初年度(平成23年度)~平成24年度においては,まず,呼吸鎖電子伝達系に係るシトクロームcの油水界面での電子移動反応をサイクリックボルタモグラムのデジタルシミュレーションに基づいて解析し,油水界面の生体膜モデルとしての有用性を示した。一方,SAM修飾金電極にユビキノン(UQ)やビタミンK1(VK1)をドープした測定系について,支持電解質を構成する陽イオンを変えたボルタンメトリー測定を実施し,SAM膜/溶液界面のガルバニ電位差がUQやVK1の見かけの酸化還元電位に影響を与えるという興味ある知見を得た。また予備的実験により,UQを油水界面の油相バルクに加えた場合は明瞭な電子移動波を与えないが,疎水層の厚みが分子レベルであるSAM膜修飾電極においては,水相に加えたレドッックス種(シトクロームc)と界面電子移動を起こし,ボルタンメトリー波を与えることも明らかにした。 最終年度(平成25年度)においては,まず,SAM膜/溶液界面の役割りを再確認するために,クロノポテンショメトリー測定を実施し,支持電解質の陽イオンの種類を変えて得られた電位-時間曲線を,SAM膜/溶液界面のガルバに電位差を考慮した理論的解析によってうまく再現することができた。さらに,UQやVK1をドープしたSAM膜修飾電極におけるシトクロームcの挙動について詳細に検討したところ,電子移動の不可逆的挙動を確認し,生体膜電子移動の理解において有用と思われる知見を得た。
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