研究課題/領域番号 |
23550097
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
藤原 照文 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80127703)
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研究分担者 |
塚原 聡 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50207338)
岡本 泰明 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40213988)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 逆ミセル / 金ナノ粒子 / 顕微蛍光測定 / 顕微散乱法 / 界面固定化 / ポリアミド / ナノ複合体 / 吸着 |
研究概要 |
まず,金ナノ粒子を迅速調製するための諸条件について,通常の水溶液系で塩化金酸をクエン酸ナトリウムで還元して合成する方法を用いて検討した。生成した金ナノ粒子の粒径は,SPRに特徴的な吸収ピークを計測し,そのデータから決定した。また,チオール基を有するアミノ酸を添加することで金ナノ粒子が凝集することを吸収分光測定により確認した。さらに,光学顕微鏡を用いて,水溶液中に生成した金ナノ粒子の散乱光を観測し,その特徴について考察した。また,液液界面での還元反応による金ナノ粒子の生成挙動のin situ顕微測定も行った。生成したナノ粒子の純度を決定するための方法としてICP-原子発光スペクトル分析法について検討した。 次に,逆ミセル系を用いて均一なサイズの金ナノ粒子を迅速に生成するための条件について,逆ミセルを反応場として活用する場合に考慮する必要がある界面活性剤の種類と濃度,界面活性剤と水の濃度比,バルク有機相の組成等,種々のパラメータを検討した。 一方,逆ミセル中に生成した金ナノ粒子を,シリカ表面に形成させたポリアミドのナノ構造体へ固定化させ,ナノ複合体を調製する方法の検討においては,まず,シリカ表面への逆ミセルの吸着挙動について,蛍光プローブとしてフルオレセインを用いて,顕微蛍光測定により計測した。また,その界面固定化挙動を明らかにするために水晶振動子秤量法による測定も行った。さらに,全内部反射-顕微散乱法を用いて,石英基板上のポリアミド層への金ナノ粒子の固定化挙動を可視化することにより,その固定化過程を究明する方法について検討した。ポリアミドの生成量は熱重量測定により求め,その分子量分布をGPCにより測定した。また,石英板などの平板状の固体表面に同様なポリアミドのナノ複合体を形成させ,その構造形成に関する情報を得るためにAFM測定を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
通常の水溶液系を用いて,金ナノ粒子の迅速調製の方法,生成した金ナノ粒子の粒径をSPRに特徴的な吸収ピークの計測データから決定する方法,光学顕微鏡を用いて水溶液中に生成した金ナノ粒子の散乱光を観測する方法,さらに液液界面での還元反応による金ナノ粒子の生成挙動のin situ顕微測定について検討した結果は,その後の逆ミセル系を用いた研究を進めるにあたって有益な情報を与えた。また,生成したナノ粒子の純度を決定するためのICP原子発光スペクトル分析法の開発は順調に進んでいる。 一方,初年度(平成23年度)は,(1)逆ミセルサイズを制御し,water pool中の特異な反応活性を利用して,均一にサイズ制御した金ナノ粒子を簡便かつ迅速に調製するための最適条件,及び(2)シリカ表面に形成したポリアミドのナノ構造体への金ナノ粒子の固定化の最適条件を確立し,そのナノ複合体の形成挙動を明らかにすることを目的としていたが,(1)と(2)のいずれも各々の最適条件を得るには至っていない。また,水晶振動子秤量法による測定結果からは,その界面固定化挙動を明らかにするための十分な情報を得ることができなかった。そこで,全内部反射-顕微散乱法を用いて,石英基板上のポリアミド層への金ナノ粒子の固定化挙動を可視化することにより,その固定化過程を究明する方法について検討した。しかし,その方法もまだ十分には確立していない。 平成23年度における研究の進行が遅れた主な理由は,本研究において主要な装置の一つである光学顕微鏡が故障し,その修理にかなりの歳月を要したことである。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度において達成できなかった金ナノ粒子の調製及びポリアミドのナノ構造体への固定化の諸条件の最適化について,まず,顕微測定法を用いてその固定化挙動を可視化する方法を確立し,各々の最適条件を得る。次に,それらの結果を基にして金ナノ粒子―ポリアミドのナノ複合体を石英等のガラス基板上に形成させ,以下のように表面プラズモン特性と散乱特性について検討するとともに,ナノ複合体に吸着させた蛍光分子の全内部反射法による蛍光特性を調べる。 (1)ガラス表面に形成した金ナノ粒子―ポリアミドのナノ複合体の表面プラズモン特性と散乱特性に関して検討する。上記の全内部反射-顕微散乱測定で用いたものと類似の装置システムに自作のガラス製薄層フローセルを設置し,フローシステムを用いて,そのセルのガラス表面にポリアミド層を形成させた後,金ナノ粒子を固定化する。そのセル内に屈折率の異なる溶媒を注入して,その吸収スペクトル変化を,光源としてキセノンランプを用いて調べ,固定化した金ナノ粒子の表面プラズモン特性について明らかにする。また,ガラス表面に固定化した金ナノ粒子による散乱光のスペクトルをキセノンランプとスペクトロメータを用いて測定し,その散乱特性についても調べる。 (2)ガラス表面に形成させたポリアミドに固定化した金ナノ粒子上に吸着させた蛍光分子の全内部反射法による蛍光特性に関する検討を行う。ガラス表面に形成した金ナノ粒子―ポリアミドのナノ複合体に蛍光分子をプローブとして吸着させ,上記と同様な装置システムを用いて,レーザー光を照射し,スペクトロメータを用いて蛍光を分光して測定し,その特性を明らかにする。 (3)これらの光学特性に関して得た結果をもとに,ポリアミドのナノ構造体に固定化した金ナノ粒子のセンシングとしての応用の可能性について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題を達成する上において,シリカなどの固体表面に形成させたポリアミドのナノ構造体へ金ナノ粒子を固定化してナノ複合体を形成させること,さらにその金ナノ粒子の分光学的なキャラクタリゼーションに関する情報を得ることが最も重要である。したがって,本研究計画を遂行するためには分光器と検出器および光源としてのレーザーが研究期間全体を通して必要不可欠である。初年度(平成23年度)においては,ポリアミド層へ金ナノ粒子を固定化したナノ複合体からの散乱スペクトル測定のための分光器・検出器一体型スペクトロメータは,現有のものを使用することができた。そこで,そのスペクトロメータを次年度も同様に使用する。 一方,消耗品として,特に散乱及び吸収スペクトル測定用のキセノンランプなどの光学部品や顕微鏡用部品は購入にかなり経費がかかる。また,他の研究室が所有しているAFMの測定装置は自由に使用できるが,それらの測定において用いる消耗部品は自前で購入して準備する必要があり,比較的高価である。さらに,金ナノ粒子の調製やGPC測定等においてかなりの量の溶媒が必要となるので,その購入費を試薬及びガラス器具の経費とともに消耗品費として挙げている。そこで,次年度の研究費は主としてこれらの消耗品の購入に使用する予定である。 旅費としては,本研究課題に関連する学会,シンポジウムや講演会等へ参加して情報を得るために必要な調査・研究旅費とともに,研究成果を発表するための旅費にも使用する。また,その成果の一部をまとめて論文誌へ投稿することを予定しているので,そのための経費としても使用する予定である。
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