研究課題/領域番号 |
23550097
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
藤原 照文 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80127703)
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研究分担者 |
塚原 聡 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50207338)
岡本 泰明 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40213988)
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キーワード | 逆ミセル / 金ナノ粒子 / 顕微蛍光測定 / 顕微散乱法 / 界面固定化 / ポリアミド / ナノ複合体 / 吸着 |
研究概要 |
1.金ナノ粒子の迅速調製法における諸条件の最適化の検討:初年度(平成23年度)に引き続き金ナノ粒子の合成法に関してさらなる検討を以下のように行った。なお,生成したナノ粒子の粒径はSPRに特徴的な吸収ピークの計測データから決定した。 (1)水溶液系においては,液液界面への可視レーザー光照射による金ナノ粒子の生成挙動をin situ顕微測定を行い,本年度は主としてレーザー光照射による金(III)の還元反応の促進機構について究明した。(2)均一なサイズの金ナノ粒子の迅速調製法を確立するために逆ミセルを金ナノ粒子生成の反応場として活用する方法についても,初年度に引き続いて種々の条件の最適化をより詳細に検討した。(3)金属ナノ粒子の純度を決定するためのICP-原子発光スペクトル分析法の開発に関しても初年度に引き続いて検討し,銀ナノ粒子について混在する微量の不純物を直接定量する方法を確立した。 2.ガラス表面に形成させたポリアミドのナノ構造体への金ナノ粒子の固定化によるナノ複合体の調製法の検討:初年度に開発したフロー系を組み入れた顕微測定システムにおいて,セルのガラス窓板が容易に脱着可能なフローセルを新たに設計・作製し,以下の検討を行った。 (1)上記の自作したフローセルのガラス窓板表面へ逆ミセルを吸着させる方法を確立し,その吸着条件の最適化を行った。さらに,その最適条件を用いてガラス基板上にポリアミド層を形成させる方法について検討した。(2)光学顕微鏡を用いて位相差観察を行い,前記(1)におけるポリアミド層の形成を確認した。また,顕微散乱法を用いて,生成したポリアミドの量的情報を得る方法を確立した。さらに,AFM測定を行って,そのポリアミドのナノ構造体の形状における特徴を明らかにした。(3)市販の金ナノ粒子を用いて,ポリアミド層への固定化挙動を可視化する方法について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
水溶液系における金ナノ粒子の迅速調製の方法や生成した金ナノ粒子の散乱光を顕微観測する方法および液液界面での還元反応による金ナノ粒子の生成挙動の顕微測定とその解析については,初年度(平成23年度)に引き続き詳細な検討を行い,その結果から逆ミセル系を用いた金ナノ粒子調製法の研究に対する有益な情報を得ることができた。また,金属ナノ粒子の純度を決定するためのICP原子発光スペクトル分析法の開発も順調に進み,ナノ粒子中の不純物の直接定量法はほぼ確立できた。 一方,初年度に目的としていた,逆ミセルを利用してサイズの均一な金ナノ粒子を迅速に調製するための条件及びガラス表面に形成したポリアミドへの金ナノ粒子の固定化の条件の最適化はいずれもまだ十分には達成できていない。また,ナノ複合体の形成挙動の解明に関しても十分な情報を得るには至っていない。このように研究の進行が遅れた理由の一つは,逆ミセル中で生成した金ナノ粒子のサイズ評価の方法およびガラス基板上に生成したポリアミドの確認の方法がいずれも十分なものではなく,それゆえガラス基板上のポリアミド層への金ナノ粒子の固定化挙動の究明も十分には行えないことが明らかとなり,それらの評価・確認の方法に関して以下のような検討が新たに必要となったためである。 1.顕微散乱法やAFM測定では生成したナノ構造体の量や形状に関する情報は得られるが,ポリアミドであるという確証が得られないため,顕微ラマン法による測定を検討したが,ナノ構造体の生成量は非常に少ないため感度が不足しポリアミドの情報が得られなかった。 2.そこで,より感度の高い全反射吸収赤外分光法による測定を行うために,ガラス窓板が容易に脱着できるフローセルを新たに自作する必要が生じた。そのセルの設計・作製にかなりの歳月を要した。 3.また,ポリアミド層形成の確認のために位相差観察用光学部品が新たに必要になった。
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今後の研究の推進方策 |
まず,平成24年度において達成できなかった金ナノ粒子の調製及びポリアミドのナノ構造体への固定化の諸条件の最適化について,自作したフローセルを用いてガラス基板上に生成したポリアミドを全反射吸収赤外分光法により確認する方法を確立し,それらの最適条件を決定する。次に,得られた最適条件を用いて石英等のガラス基板上に金ナノ粒子-ポリアミドのナノ複合体を形成させ,本研究課題の達成をめざして以下のように表面プラズモン特性と散乱特性を調べるとともに,ナノ複合体に吸着させた蛍光分子の全内部反射法による蛍光特性等の分光特性を明らかにする。 1.ガラス表面に形成した金ナノ粒子-ポリアミドのナノ複合体の表面プラズモン特性と散乱特性に関して検討する。上記の顕微散乱測定で用いたものと類似の装置システムに自作のガラス製薄層フローセルを設置し,フローシステムを用いて,そのセルのガラス表面にポリアミド層を形成させた後,金ナノ粒子を固定化する。そのセル内に屈折率の異なる溶媒を注入して,その吸収スペクトル変化を,光源としてキセノンランプを用いて調べ,固定化した金ナノ粒子の表面プラズモン特性について明らかにする。また,その金ナノ粒子による散乱光のスペクトルをキセノンランプとスペクトロメータを用いて測定し,散乱特性についても調べる。 2.上記1のナノ複合体の金ナノ粒子上に蛍光分子を吸着させ,全内部反射法による蛍光特性に関する検討を行う。ガラス表面に形成した金ナノ粒子-ポリアミドのナノ複合体に蛍光分子をプローブとして吸着させ,上記と同様な装置システムを用いて,レーザー光を照射し,スペクトロメータを用いて蛍光を分光して測定し,その特性を明らかにする。 3.上記1及び2において得た光学特性に関する結果をもとに,ポリアミドのナノ構造体に固定化した金ナノ粒子のセンシングとしての応用の可能性について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題を達成する上で最も重要なことは,シリカなどの固体表面に形成させたポリアミドのナノ構造体へ金ナノ粒子を固定化してナノ複合体を形成させること,さらにその金ナノ粒子の分光学的なキャラクタリゼーションに関する情報を得ることである。それを遂行するためには,光源としてのレーザーおよび分光器と検出器が研究期間全体を通して必要不可欠である。ガラス基板上に生成したポリアミド層やそこに金ナノ粒子を固定化したナノ複合体からの散乱スペクトル測定のための分光器・検出器一体型スペクトロメータは,これまでと同様に,次年度も現有のものを用いる。また,ポリアミド層の形成を確認するために購入した位相差観察用対物レンズとコンデンサは次年度においても同様に使用する。一方,消耗品として,特に散乱及び吸収スペクトル測定用の光学部品や顕微鏡用部品は,かなり経費はかかるが,次年度も購入する必要がある。また,AFM測定装置は他の研究室が所有しているが,これまで同様に自由に使用できる。しかし,その測定において必要となる比較的高価な消耗部品は,次年度も自前で購入して準備する。さらに,金ナノ粒子の調製やフローシステムを用いた測定などにおいてかなりの量の試薬や溶媒が必要となるので,その購入費を試薬及びガラス器具の経費とともに消耗品費として挙げる。したがって,次年度の研究費においても主として消耗品の購入に使用する予定である。 旅費としては,本研究課題に関連する学会,シンポジウムや講演会等への参加において,これまでと同様に情報収集も行うが,本年度は研究成果を発表することを主たる目的としており,そのために使用する旅費を挙げる。その他,成果発表のための論文誌への投稿は昨年度より多く予定しており,そのための経費としても使用する。
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