研究課題/領域番号 |
23550098
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
石岡 寿雄 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 助教 (60304838)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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キーワード | 小角X線散乱 / イオン液体 / 光増感反応 |
研究概要 |
イオン液体中で光増感反応により高効率で一重項酸素を生成するポルフィリン誘導体について,そのイオン液体中における会合体の構造を解明するのが初年度の目的である.まず,シンクロトロン光を用いた小角X線散乱を測定可能な複数の異なる構造のセルを設計・作成し,佐賀県立九州シンクロトロン光研究センター内の九州大学ビームラインに設置し,1.38オングストロームの単色X線を試料に照射して小角領域(q=0.1~2.7 nm-1)の散乱X線を観測した.得られた結果から,測定セルとして50μmのカプトン膜で液体試料を挟み込む構造のものが最も良好な信号を取得可能であることを確認した.試料のイオン液体として硝酸エチルアンモニウム,増感剤として用いるポルフィリン誘導体の濃度領域として10(-5)M~飽和(>10(-4)M)について小角X線散乱を測定したところ,10(-5)M,飽和についてはポルフィリンに由来するX線散乱が観測されたが,10(-4)では散乱強度がほとんど観測されないという結果となった.この結果はポルフィリン誘導体の会合体構造形成が濃度に大きく依存することを示している.一方,解析に十分に適用可能なX線散乱強度を得られた濃度について,構造解析を行ったところ,濃度10(-5)Mでは直径60 nm, 厚み13 nm程度,飽和濃度ではそれぞれ54 nm,厚み16 nm程度の円盤の時が最もX線散乱の実験データを良好に再現した.この結果はイオン液体中におけるポルフィリン誘導体分子が3次元的に数万以上の分子が会合した構造を形成していることを示唆している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イオン液体中におけるポルフィリン会合体の構造を小角X線散乱によって測定するシステムを開発することが初年度の計画であり,シンクロトロン光施設の利用時間の制約のあるなか,順調に測定セルを作成し,実験に供することができた.またイオン液体中のポルフィリンの会合体の構造についても解析を行うことにより構造データを取得することもほぼ予定通りの進捗状況である.平成23年度に光照射を行うための光源と光伝送系を購入し,セルへの取付けまでを行う予定であったが,ポルフィリンの会合構造が濃度,温度に依存する可能性が生じたため,温度調整機能を付加した上で光照射の実験に進んだ方が効率的に研究が進捗すると考え,測定セルの構造に適した機種を選定するために次年度に作業を順延し,また基金化された予算についても,その分を繰り越している.この部分に関しては初年度の計画通りではないが,予想にはない結果から必然的に生じた実験計画の変更であり,進捗状況としてはおおむね順調なものであると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
イオン液体中におけるポルフィリン会合体の構造と,一重項酸素の生成効率との関係をより詳細に検討するため,小角X線散乱の測定セルに温度調節機構,ならびに光照射機能を付加する.温度調節にはフロー型セルを用い,液体を循環させるシステムを作成することを予定している.また光照射のためのシステムとして,ファイバー光源を購入して測定セルに付加する. 以上の測定セルの改良を行いつつ,佐賀県立シンクロトロン光研究センターに設置された九州大学ビームラインにおいて課題申請を行い,マシンタイムを取得し,溶液からの小角X線散乱測定を行う.この結果により,ポルフィリン会合体の構造の濃度,温度,光照射による変化を観測する. また会合体の構造と光増感反応による一重項酸素の発生との関係を明らかにするため,ポルフィリンの温度と濃度を変化させて会合体の構造を制御し,それによって一重項酸素の生成効率がどのように変化するかを,一重項酸素のマーカー分子を用いて実験室で計測する.この結果と小角X線散乱のデータとを比較し,最も一重項酸素の生成効率の高い構造を明らかにする. ポルフィリンの会合体の構造に関しては,研究室において動的光散乱測定法を用いるなど,小角X線散乱以外の構造解析手段も加えて結果の信頼性を向上させる.
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次年度の研究費の使用計画 |
(次年度使用額640,865が発生した状況)平成23年度は震災の影響により初期の研究予算が部分的に配分されたため,シンクロトロンのマシンタイムに対応する時間までに必要とされる設備備品(光源と導入装置)の納入が困難な事態となった.また平成23年度後半においてはマシンタイムが十分になく,ビームライン側の装置の構成仕様の変更があったことから,無理に平成23年度に設備備品を導入するよりも平成24年度に最適な装置仕様を決定するほうがより効率的な研究が遂行できると判断し,該当する予算を繰り越すことにした.(繰り越し予算の使用計画)現状のシンクロトロンビームライン仕様に対応したメタルハライド光源,および光ファイバーを購入する.(平成24年度の使用計画)設備備品として,小角X線散乱の測定用セルに温度調整機能を付加するため,微量の送液ポンプと,精密な温度調整システムを購入する.また光照射機能を付加するため,メタルハライド光源,および光ファイバーを購入する.光源に関しては,平成23年度から計画的に繰越した基金を活用するのは前述の通りである. 旅費に関しては,実験に際し所在地から佐賀県立九州シンクロトロン光研究センターまでの交通費,および研究成果報告のための学会関連への参加費用を予定している.申請者および,研究を担当する大学院学生の旅費について負担する. 消耗品に関しては,イオン液体の合成に関わる試薬,ガラス器具の他,測定セルを作成するための金属加工品,分析に用いるキャピラリーなどを予定している. その他,小角X線散乱の測定の際,九州大学ビームラインで利用料がかかる場合にはその負担金を支出する予定である.
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