研究課題/領域番号 |
23550098
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
石岡 寿雄 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 助教 (60304838)
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キーワード | イオン液体 / 光増感反応 / ポルフィリン / 一重項酸素 |
研究概要 |
本研究はイオン液体と呼ばれる不揮発性の常温溶融塩を溶媒とする系において、これまでに申請者が見出した光増感反応による高効率の1重項酸素の生成、および1重項酸素による有機分子の酸化反応のメカニズムを、小角X線散乱(SAXS)を用いて解析し、高効率の構造を決定することにより、さらなる高効率の光反応を達成することを目的としている。本年度は温度依存性に着目し、SAXSを測定しながら系の温度を上昇させ、それに伴うイオン液体中の光増感剤:ポルフィリンの構造変化を決定した。イオン液体である硝酸エチルアンモニウム中にテトラスルホナートフェニルポルフィリン(TPPS)を10(-5)M溶解させた試料を10℃から60℃まで変化させ、X線散乱データを取得し解析したところ、いずれの温度においても棒状あるいは円盤状では散乱関数のフィッティングが不能であり、球状の会合体を形成しているという結論となった。会合体の大きさは10℃から40℃までは直径500~600Åとほぼ一定であったが、50℃および60℃では300~400Åと変化する結果となった。以上の結果は紫外可視吸収スペクトルにおいて、凝集体に帰属される吸収極大が温度上昇に伴い減少する結果と対応しており、構造が熱運動に伴い、より小さくなっていることを示唆するものと考えている。凝集体が形成される条件として、ポルフィリンの電荷が寄与していることから、現在、イオン液体中のポルフィリンの凝集体にはイオン液体分子が構造内部に含まれていると考えている。今後、共鳴SAXSを用いたポルフィリン凝集体の組成の解析、ならびに凝集体の構造変化に伴う光増感反応の効率のとの相関について、詳細を解析する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小角X線散乱の利用により、イオン液体中の光増感剤分子、ポルフィリンが会合体を形成していることを明らかとするとともに、その構造変化を見出し、さらに紫外可視吸収スペクトルの結果と対応することなど、新しい実験事実を確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
温度依存性において見出されたイオン液体中のポルフィリン凝集体の構造変化について、変化の前後における光増感反応の効率を解析するとともに、光照射下におけるポルフィリン構造の変化についても実験を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
シンクロトロン光を実験施設におけるマシンタイムが装置故障の影響で2回にわたる延期を受け、そのため、ポルフィリン凝集体の構造の温度依存性が明らかとなったのが年度後半となってしまった。また以上の結果から光照射下における反応を解析する装置の設計に修正を加える必要が生じたが、必要な機器の購入が間に合わず、次年度において十分な予算のもとに機器の再設計を行った方が効率の良い研究を実施できと判断したため。 温度コントロールが可能な小角X線散乱測定装置に光照射系(ファイバー光源)を購入して導入する。その際、セルを再設計する必要があり、セルの外注に伴う費用(約20万円)も必要である。
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