イオン液体中におけるポルフィリン類の光増感反応と凝集構造との相関をを解析するため,イオン液体の種類,ポルフィリンの官能基を変えてそれぞれ,1)小角X線散乱による凝集体の構造解析,2)紫外可視吸収スペクトルによる解析,3)光照射に伴う1重項酸素発生量 に関する実験を温調セル中10℃~60℃について行った.使用したイオン液体で最もカチオンのアルキル鎖の短い硝酸エチルアンモニウム(EAN)と,アニオン性のポルフィリンTPPSに関して,光増感反応による1重項酸素発生量の温度依存性を計測したところ,温度が上昇するにつれて光増感反応の効率が大幅に減少した.一方,アルキル鎖の長いイオン液体に関しては,このような依存性が見られなかった.紫外可視吸収スペクトルの測定,および小角X線散乱の測定においても,EANとTPPSの組み合わせの際にスペクトルの変化が観測され,いずれも低温において会合体が形成され,高温において会合体が消失ないしサイズが減少するという結果を示唆するものであった.会合体の構造を解析するために各種モデル構造と散乱パターンをフィッティングした結果,10℃~40℃においては直径12-15 nmの円盤状の構造を形成していることが明らかとなった.アルキル鎖が長いイオン液体においては,このような構造形成が観測されず,会合体の構造形成にはイオン液体のカチオン種が寄与していることが予想される.以上の結果を総合すると,ポルフィリンのアニオン性置換基とイオン液体のカチオン種の電荷相互作用が会合体の形成に寄与している可能性が高い. イオン液体中,特にEAN中で光増感反応が顕著に進行する理由として,会合体の形成によりポルフィリンの運動が制約され,励起状態の寿命が伸びている可能性が示唆される.今後励起寿命の測定などにより上記仮説を検証する予定である.
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