研究課題/領域番号 |
23550101
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
高山 光男 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科, 教授 (10328635)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 水素ラジカル / オゾン / 大気圧微小プラズマ |
研究概要 |
水素ラジカル発生システムの構築を目的として、以下の活性化学種反応管を製作し、生成した化学種の確認およびそのイオン分子反応への影響を調べた。1.水素ラジカルを含む一般活性化学種を発生させるための反応管を製作した。反応管は、重水素紫外光ランプ、反応気体導入管と導入ポンプ、および生成した活性化学種の移送管から構成される。2.上記反応管を大気圧微小プラズマ発生装置と連結し、さらに生成したイオン種を同定解析するために、三連四重極タンデム質量分析計と結合した。3.上記システムを稼働させるために、乾燥空気を反応管に移送し、重水素紫外光の照射条件下で、オゾンの発生を確認した。続いて、大気圧下での微小プラズマイオン源を用い、オゾン由来の大気イオンである酢酸負イオン CH3COO- の生成を確認した。試料分子としてアミノ酸の一つである気体メチオニン分子を用いて、酢酸負イオンとの複合体負イオン [M+CH3COO]- を観測した。4.上記複合体イオンの低エネルギー衝突誘起解離スペクトルを得たところ、脱プロトン化メチオニン [M-H]- のシグナルの他に、脱水素反応由来のメチオニン負イオン種 [M-2H-H]- のシグナルも観測され、酸化反応が起こっていることが確認された。本酸化反応は、上記酢酸負イオンを同組成のビラジカル負イオンが生成していることを示唆した。すなわち、ビラジカル種によるメチオニンからの水素引き抜き反応が起こっていることが示された。 以上、本年度はラジカル発生の基本システムとして活性化学種生成システムを構築することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上に述べたように、本年度は、水素ラジカル発生システムの構築に向けた活性化学種を生成するための基本器具の製作を行った。その結果、オゾンの生成とそれに続く気相アミノ酸分子の酸化反応を確認することができた。酸化反応は、大気圧微小プラズマ空間におけるオゾンの関与するビラジカル種生成によるものと考えられたが、詳細な機構と化学種の同定は今後の課題となった。 以上、本年度は、予定していたラジカル発生システムの基本部分を構築することができ、その性能評価も行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
基本的なラジカル発生システムとして、オゾンのような活性化学種の生成を可能とする反応管の製作とその評価ができたので、今後は、水素ラジカルを発生させるために水素ガス発生装置との連結、およびその評価を行う。すなわち、オゾンは酸化反応を誘起するのに対して、水素ラジカルは強い還元反応を誘起することが予想される。そのために、各種有機化合物を用いたオゾンによる酸化反応の特性を調べることが必要と考える。オゾンによる酸化反応の生成物をイオンとして検出し、その構造解析を実施してゆく。その上で、既知の酸化反応の特性を、水素ラジカルによって誘起される還元反応と比較することで、大気圧下での酸化還元反応系の反応機構を系統的に調べてゆく。さらに、大気圧下での窒素レーザー光照射システムも加え、レーザー光誘起の大気圧下での水素ラジカル発生源の探索を行う。 大気圧下での有機化合物の酸化還元反応は、生体分子、食品関連分子、環境関連分子などの大気圧下での動態を知るうえで重要な情報を与えてくれるので、本基礎研究の今後の応用への指針を与えると考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
大気圧下での微小プラズマデバイスであるコロナ放電は、現在、アンビエントイオン化質量分析装置に用いられており、その場計測に広く利用されている。また、大気環境計測などにも応用されており、本研究課題である水素ラジカルによる特異な反応も応用が期待される。このため、次年度は、水素ラジカルの発生デバイスとして特定波長の紫外光を利用した水素ラジカル発生とイオン生成を生じさせるために、主として電子励起を目的とした光イオン化ランプを設置する(希ガス光イオン化ランプの購入)。同時に、水素ガスだけでなく、光誘起による水素ラジカル発生源または水素移動反応を生じる有機分子系の探索を行う(種々の光感応生有機分子の購入)。また、研究成果の応用の方向性を探るために、関連する国際学会で情報収集する(国際学会への参加費用)。
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