LC-MSで低極性化合物を検出するには真空紫外光を用いた大気圧光イオン化法やコロナ放電を用いた大気圧化学イオン化(APCI)法がある。しかし、これらの手法で微量分析を行う際には、溶媒や不純物のイオン化による背景イオンが問題となる。我々は超小型(22 cc)の高繰り返しピコ秒レーザー(532 nm、50 microJ、500 ps、1 kHz)を用いて、非共鳴多光子過程により分子をイオン化・検出する大気圧多光子イオン化(APMPI)法を開発した。APMPIにより多環芳香族炭化水素(PAH)を測定した際には、APCIとは異なりAPMPIではPAHのみをイオン化・検出できるためバックグラウンドの信号がない結果を得ることが出来た。さらに溶媒や添加物の影響を調べた。APCIではMeCN、MeOHどちらを移動相として用いてもプロトン化アントラセンが多く生成する。APMPIではMeCNを用いると、プロトン化アントラセンよりもカチオンラジカルの生成比率が大きくなった。このことはAPMPIでは光電効果様のイオン化が起こることを示している。一方、MeOHを用いるとAPCIと同様にカチオンラジカルよりもプロトン化アントラセンの生成比率が大きくなった。さらにプロトン化アントラセンのイオン収量はMeCNの場合と比較して約13倍大きくなった。MeOHがプロトンドナーとなり、プロトン化アントラセンが多く生成したためと考えられる。また、アントラセン試料にトルエンを2%(v/v)添加すると、添加物を加えない場合と比較してプロトン化アントラセンの信号強度が約1.4倍大きくなった。レーザーによる非共鳴多光子過程により、アントラセン(分析種)とトルエン(添加物)がイオン化されるが、プロトン親和力およびイオン化エネルギ-から考えて、トルエンの分子イオン及びプロトン化分子が反応イオンとなり、イオン-分子反応によりアントラセンをイオン化したためと考えられた。
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