研究概要 |
本年は、昨年度に設計した金属アリル化剤に代替する有機分子アリル化剤を用いて位置特異的アリル化反応を試行し反応の有用性を確立するとともに、反応機構解明ならびに不斉合成反応の開発に向けて、種々、検討を行った。 ・2,4-置換ホモアリルアミン合成を目的とするアルドイミンの1,3-転位反応 昨年度に見出した新規1,3-転位反応の反応機構解明に向けて、交差反応実験ならびにキラルな反応基質の合成と不斉転写反応を行った。交差反応実験では、正常転位体と交差転位体の両方が得られ、1,3-転位反応が段階的に進行していることを示唆する実験結果を得た。不斉転写反応の検討では、キラルな反応基質を合成し不斉転写反応を行い、それぞれの幾何異性体に対して不斉転写されたと考えられる解析結果を得た。また、触媒的不斉反応への展開を目指し、検討を行った。不斉分子触媒として光学活性ビナフトールから誘導したキラルジチオリン酸を、サリチルアルデヒドから誘導したアルドイミンを用いて用いて反応を行った。その結果、わずかではあるが、不斉誘導がみられた。 ・1,4-置換ホモアリルアミン合成を目的とする1,2,2-置換アミノブテンの1,3-アルキル移動反応 昨年度の知見をもとに、反応の適用範囲について検討を行った。その結果、1位および2位の置換基は、アルキル基ならびに芳香族置換基のどちらも適用可能であり、高収率で目的とする1,4-置換ホモアリルアミンが得られた。また、反応機構の解明に向けて、交差反応実験ならびにキラルな反応基質の合成と不斉転写反応を行った。交差反応実験では、正常生成物と交差生成物の両方が得られた。また、不斉転写反応では、90%程度の不斉転写立で生成物が得られた。これらの実験結果から、本反応は、ブレンステッド酸存在下での逆エン反応によるイミニウム中間体の形成を伴って進行したと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請研究の最終課題は位置選択的な光学活性多置換ホモアリルアミンの合成にある。現在までの研究により、最終課題の基盤となる位置選択的な三置換ホモアリルアミンの合成法を確立し、その反応機構に関して知見を得ることができた。具体的には、設計した転位反応により、ブレンステッド酸存在下、1-モノアリール-4,4-ジアルキルホモアリルアミンと2-モノアルキル-4,4-ジアルキルホモアリルアミンが高収率で得られた。本研究で合成が可能となったホモアリルアミンは、金属アリル化剤を用いるイミン類へのアリル化反応などの従来法では合成することが困難であったオレフィン末端に二つの置換基を有するホモアリルアミノ化合物である。 得られたオレフィン末端に二つの置換基を有するホモアリルアミノ化合物の不斉合成については、キラルジチオリン酸による触媒的不斉反応の検討において、わずかではあるが不斉誘起がみられている。また、反応機構解明に関する検討を行うなかで、当初から検討を計画していた触媒的不斉合成とともに、不斉転写によるアプローチも可能であることが明らかとなった。本研究は、今後、キラルジチオリン酸を用いる触媒的不斉反応、ならびに、不斉転写反応の検討により光学活性ホモアリルアミン合成への展開が十分に期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに開発した「1,3-転位反応による2-モノアルキル-4,4-ジアルキルホモアリルアミン合成反応」と「1,3-アルキル移動反応による1-モノアリール-4,4-ジアルキルホモアリルアミン合成反応」のキラルブレンステッド酸による不斉触媒化を試みる。研究を遂行するにあたり、(1)ジチオリン酸によるエナンチオ選択的反応の検討(2)不斉転写反応の検討が主な課題となる。 具体的には、本年度、当研究室で合成・精製方法を確立したキラルジチオリン酸を不斉有機分子触媒として用いて検討を行い、得られるエナンチオ選択性を精査しながら触媒や反応基質の設計を再考する。最終的には、開発した転位反応において、高収率かつ高エナンチオ選択性の獲得を目指す。また、不斉転写反応では、反応条件の検討をより詳細に行い不斉転写率の向上を目指し、本反応の有用性を確立したい。
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