研究課題/領域番号 |
23550116
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
工藤 一秋 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (80251669)
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研究分担者 |
赤川 賢吾 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (60548733)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ペプチド触媒 / コンビナトリアル化学 |
研究概要 |
キメラ型ペプチド触媒の構造の詳細な解析について,2次元NMRの測定によってα-ヘリックスとβ-ターンユニット相互の空間配置の関係を解明することを試みた。しかしながらα-ヘリックス部位の構造を特定することが難しいことが分かった。重水素化PEGならびに重水素化ロイシンを導入したペプチドの合成にまだ至っていない。一方で,α-ヘリックス部位としてオリゴアラニンもつキメラ型ペプチド触媒を用いる不斉触媒反応を新たに見出した。オリゴアラニンはオリゴロイシンと異なり,溶解度の低下があまり問題にならない。このことに着目して,この新規キメラ型ペプチドについてNMRで構造解析を進めた。その結果,オリゴアラニン残基が長くなるほどβ-ターン構造が安定化されることを初めて明らかにできた。量子化学計算によるキメラ型ペプチド触媒作用機序の解明に関しては,DFT計算によるペプチド触媒構造の最適化を目指すにあたり,まず3残基の短いペプチドで計算を試みた。その結果,1つの計算に3日以上かかることが分かり,計算化学的アプローチについてはかなり確度の高い構造情報が得られた後に再度おこなうこととした。コンビナトリアル法による最適ペプチド触媒の探索に関しては,当初,キメラ型ペプチド触媒ライブラリに対して,蛍光性の5-メトキシインドールをPEG部位をもつエナールに付加させ,樹脂上のPEGとの親和性を利用して活性ペプチドを検知する1)蛍光強度が低い,2)未反応のメトキシインドールの選択的洗い出しが困難,という問題に直面した。種々検討の結果,求核剤として可視光ラベル化したマロン酸エステルを用い,さらには,共役付加ののちに還元剤を加えると中間体のイミニウムイオンが還元されて,マロン酸エステル付加体がそのまま樹脂上に残るという,好ましい現象を見出し,これを用いてライブラリの構築が実際に可能であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
目的(1)の2次元NMRによる構造解析と量子化学計算によるエナンチオ選択性発現の機構解明に関しては,当初計画より遅れている。これは,スペクトルが複雑すぎて解析が困難であったためであり,今後の課題である。目的(2)コンビナトリアル化学的手法によるペプチド触媒の最適化に関しては,当初計画とは異なる展開となったものの,新たなライブラリのアッセイ方法を見出したので,今後への発展性がある。目的(3)の新たなペプチド触媒の開発に関しては,酵素反応と組み合わせたone pot2段階反応ならびに位置選択的な共役付加反応について予備的な結果を得ることができている。
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今後の研究の推進方策 |
まず23年度の研究を継続する。2次元NMRによる構造解析に関してはα-ヘリックス部位としてオリゴアラニンを用いたものが測定に好適と分かったので,重水素化アラニンを用いてペプチド触媒の3次元構造の解明を目指す。量子化学計算に関しては,これまでの経験を踏まえてスーパーコンピュータの使用も視野に入れて実施する。コンビナトリアル法による最適ペプチド触媒の探索に関しては,まだ使用可能なアミノ酸に制限があるなどの問題を有しているので,それらの問題を解決して,真に実用的な系の確立とそれを用いての新規ペプチド触媒の発見を目指す。さらに,以下の研究を行う。1)他のN-末端プロリルペプチド触媒反応への拡張:23年度中に予備的な結果を得たone pot 2段階反応について,条件の最適化,一般性の検討,機構の解明を進める。さらには,β-ターン構造に基づいた遠隔位からの反応制御として,メチオニン側鎖上の硫黄をイリドに誘導してのシクロプロパン化を検討する。2)他のキメラ型ペプチド触媒反応への拡張:ペプチドN末端1級アミノ基を用いる触媒について検討を進める。エナミン機構でのアルドール反応,アルキル化反応やイミニウム機構での共役付加などが挙げられる。さらに,金属への配位可能部位を持つものを利用して,金属触媒反応への展開も図る。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用予定の研究費がある。これは,コンビナトリアル化学的手法によるペプチド触媒の探索に関して,当初計画よりも進度が遅くなったことに起因している。研究実績で述べたとおり,これに関しては準備が整ったので,次年度に遅れを取り戻すべく繰越分と合わせて使用する。他の研究用途も含めて,当初計画どおり,予算はほとんどを消耗品費,一部を旅費に充てる。
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