研究課題/領域番号 |
23550116
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
工藤 一秋 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (80251669)
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研究分担者 |
赤川 賢吾 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (60548733)
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キーワード | ペプチド / 有機触媒 / 不斉合成 / 二次構造 |
研究概要 |
NMRによる構造解析に関しては,前年度の実績を踏まえてヘリックス部位にオリゴアラニンをもつものを検討する予定であったが,その後,(Leu-Leu-Aib)2という310へリックス構造を有するキメラ型ペプチドが優れた触媒能を示し,しかもそれがメタノールに可溶であることが見出されたため,この部位を持ったキメラ型ペプチドについて測定を行った。その結果,D-Pro-Aibの部分がターンを形成していることをROESYスペクトルから明らかにすることができた。しかしながら,興味の焦点であるターン部位とヘリックス部位の相互の空間的位置関係に関する情報は得ることはできていない。 コンビナトリアル法による最適ペプチド触媒の探索に関しては,前年度に見出された反応成績体の樹脂への固定化法を利用して,可視光ラベル化したマロン酸エステルの共役付加に好適なペプチド配列の探索を行った。その結果として,ヒットした樹脂の配列にこれまでのPro-D-Pro-Aib-Trp-Trpの他にPro-D-Pro-Aib-Trp-Hisも見出された。しかしながら,ペプチドのMSによる解析において,該当する配列のないピークが得られることが高頻度で起こり,アッセイ法の再考が必要との結論に達した。 他のN-末端プロリルペプチド触媒反応への拡張に関しては,β位2置換のα,β-不飽和アルデヒドに対するニトロメタンの付加が極めて高いエナンチオ選択性で進行することが見出され,その場合にはヘリックス部位としてヘキサロイシンが最適であることがわかった。 さらに,ペプチドN末端1級アミノ基を用いる触媒について検討を進め,適切なヘリックスペプチドを用いることでα,β-不飽和ケトンへのニトロメタンの付加において高いエナンチオ選択性が発現することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目的(1)の2次元NMRによる構造解析と量子化学計算によるエナンチオ選択性発現の機構解明に関しては,ターン構造の存在まで明らかにできた。量子化学計算の初期値となりうるより詳細な構造解析が今後の課題である。 目的(2)のコンビナトリアル化学的手法によるペプチド触媒の最適化に関しては,リンカーの選択を適切に行うことで,使用可能なアミノ酸の種類の拡張に成功し,問題をはらみつつもスクリーニングの有効性を明らかにすることができた。 目的(3)の新たなペプチド触媒の開発に関しては,2種の高エナンチオ選択的な反応を新たに見出すことができた。 以上を総合的に勘案して,上記の判断に至った。
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今後の研究の推進方策 |
24年度の研究を継続する。2次元NMRによる構造解析に関しては今回有効であった310へリックス部位を有するペプチドの一部のアミノ酸を重水素置換したものを用いるなどして,より詳細な情報の獲得につとめる。その結果を利用して量子化学計算に持ち込む。コンビナトリアル法による最適ペプチド触媒の探索に関しては,さらにライブラリの幅を広げて,これまでにはない新しいキメラ構造をもつものを見出す。 さらに,以下の研究を行う。 1)キメラ型ペプチド触媒によるさらなる反応の探索: 前年度に見出されたニトロメタンの高エナンチオ選択的付加反応は他のアミン触媒では極めて単離収率の低いものであることが分かり,ペプチド触媒の優位性を明らかにした。次年度もそのような観点からペプチド触媒ならではの反応を引き続き探る。 2)キメラ型ペプチドを構造支持体とするアミン触媒以外の触媒の開発: キメラ型ペプチドはあくまでも適切な反応場を与える仕掛けであって,その反応活性部位までもがペプチドである必要は必ずしもない。このため,例えば,N末端をピルビン酸エステルへと誘導化して,そのケト基をアミノトランスフェラーゼ様の触媒としてつかうこと,あるいは末端に金属錯体を結合させた触媒を用いるという方法が考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用予定の研究費がある。これは,主としてコンビナトリアル化学的手法によるペプチド触媒の探索に関して,アッセイ上の問題が明らかになり,当初計画よりも進度が遅くなったことに起因している。この問題を解決して遅れを取り戻し,当初予定であった消耗品の購入に充てる。
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