研究概要 |
コンビナトリアル法による最適ペプチド触媒の探索に関しては,引き続き可視光ラベル化したマロン酸エステルを用いてライブラリのアッセイを行い,活性のあった配列を調べたところ,N末端から4,5残基目にPhe-Hisという配列をもったペプチドが新たに見出された。この触媒ではHisの側鎖が反応に関与している可能性が示唆された。 キメラ型ペプチド触媒による反応開発に関しては,これまでに例のなかった面不斉化合物への適用が可能であることが新しく見出された。すなわち,面不斉フェロセン誘導体であるエナールに対する速度論的光学分割が進行することを見出した。 その間に,他の触媒の開発も進み,これまでのキメラ型ではなく310-ヘリックス構造のみをもつと思われるペプチド触媒を用いた場合に,エノンに対するニトロメタンのマイケル付加が高いエナンチオ選択性で進行することを見出した。このペプチド触媒はこれまでのものよりアミノ酸配列が単純であるため,構造解析に適すると考えられた。そこで,このペプチド触媒について,2次元NMRの測定を試みた結果,確かに310-ヘリックス構造を持つことが分かった。しかしながら,α-ヘリックスとの間で平衡が存在する可能性も残った。なお,NMR測定では,部分的に重水素化ロイシンを導入したペプチドを複数合成してスペクトルを比較することて構造が明確に同定できた。 量子化学計算によるペプチド触媒の構造推定に関しては,310-ヘリックス構造のみをもつペプチド触媒を対象にすることとし,しかも最初はN末端のアミノ酸1残基と基質とが結合した化合物をターゲットとした。その結果として,ペプチドのアミド結合のN-H部分と求核剤との間で水素結合が形成されている可能性が示唆された。今後,引き続きヘリックス部位の影響についてさらに検討を進めていく必要がある。
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