研究課題/領域番号 |
23550117
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
平野 雅文 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70251585)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 酸化的カップリング / ルテニウム / ジアステレオ選択性 / 化学選択性 / 位置選択性 |
研究概要 |
平成23年度の研究成果は当初の研究実施計画を大幅に超えた以下の成果が得られた。すなわち、「0価ルテニウム錯体によるオレフィン類の位置選択的二量化反応」では、これまでに報告例のほとんどないメタクリル酸メチルのtail-to-tail型二量化反応を温和な条件下で実現し、その機構的解明に成功した。この反応では、我々の報告の後に有機触媒を用いた2つの報告が行われたが、新規触媒の開発により,当初の問題点であった三量化反応の併発を抑制することができ、収率92%の極めて高い収率を実現した(日本化学会第92春季年会)。また、この例を含め、「触媒機能の向上」では、新規な触媒設計により、ビシクロノナジエンを持つ錯体では、従来の錯体に較べて30倍の活性向上に成功した(日本化学会第92春季年会)。また、「化学選択的共二量化反応」においては、ジエンと置換オレフィンの選択的カップリング反応を実現するとともに、この触媒反応が特に分岐型化合物の合成に有効である事を見出し、ミルセンなどのテルペン類の反応に応用した(第58回有機金属化学討論会および日本化学会第92春季年会)。また、これらの成果の一部は、第108回触媒討論会において特別講演として講演を行った。 このように平成23年度の研究計画を高いレベルで実現するとともに、次年度以降の研究計画である「共二量化反応における化学、位置およびジアステレオ選択的反応」では、例えばメタクリル酸メチルとジヒドロフランとの反応により、単一のジアステレオマーとして収率87%で3置換ジヒドロフランの直接合成に成功した。これは、置換オレフィンの共二量化により化学、位置、およびジアステレオ選択性が同時発現したはじめての報告である。これらの成果は、平成23年以降に3報の論文にまとめており、1報が投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は当初の計画以上に進展していると自己評価することができる。その根拠としては、「当初の研究計画を前倒しして研究が進展」しており、いずれも高いレベルで実現することができた。特に今年度末より、化学、位置、ジアステレオに加えてエナンチオ選択的反応についても研究に着手しているが、これは当初の計画を遥かに超えた実施状況であり、今後の成果が待たれる。また、平成24年度に計画されていた反応機構に関する研究では、平成23年3月にフランスで行われた触媒反応に関わる国際会議において当該研究を発表した学生がポスター賞を受賞するなど高い評価を得た。またこれらの反応全体については、第108回触媒討論会において特別講演として講演するとともに、タイで実施された第14回アジア化学会において招待講演を行った。また平成23年以降にこれらに直接関連する論文を3報報告しており、1報が投稿中である。これらの事実より、「当初の計画以上に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、当初の計画を超えた研究に着手する予定であり、従来の計画に加えて2つの研究計画を追加する。すなわち、平成23年度の機構的研究により、ルイス塩基性の高い0価ルテニウム上でのジエンとオレフィンの酸化的カップリング反応は、配位しているジエンがオレフィンに対し求核的に付加することが実験化学的および計算化学的に明らかになった。このため、ジエンの求核性を利用した反応を実現することを目的の1つとする。これまでに類似の反応は報告されているが、いずれもアルキル化剤や還元剤を必要としている。本系ではβヒドリド脱離が極めて速い系であるため、分子内での水素移動によりこれらの試薬なしに反応を実現することが可能ではないかと考え、新たな目的とした。また、これまでに化学、位置、ジアステレオおよびエナンチオ選択的な置換オレフィンどうしの鎖状カップリング反応は皆無であるため、これらのエナンチオ選択的反応をキラルジエン配位子を用いて実現を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の途中より、研究計画が予想以上に進捗することが明らかとなり、新たな研究計画を次年度に実施すべく平成23年度予算の節約を行い、その分を平成24年度に使用することとした。主な使途としては、新たな研究計画に伴う消耗品の購入であり、新規に追加された計画に基づき、キラル化合物の合成と分析に関わる消耗品代も支出する計画である。また、旅費としては、フランスで開催される第18回均一系触媒国際会議において成果発表を行う予定である。また、国内旅費としては、有機金属化学討論会、錯体化学討論会、触媒討論会ならびに第12回国際有機化学京都会議などで積極的な成果発表を行う予定である。
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