研究課題/領域番号 |
23550118
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
坪内 彰 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40272637)
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キーワード | ケイ素転位 / エノールシリルエーテル / アルケニル銅 / シリカート / 三成分連結反応 / 銅エノラート / 共役付加 |
研究概要 |
平成24年度は、昨年度に引き続き、ケイ素の[1,2]転位を鍵とするワンポット三成分連結反応による完全なレジオおよびジアステレオ選択的なα,β-二置換エノールシリルエーテルの合成法に関する研究を行った。その結果、α,β-不飽和アシルシラン、Grignard試薬(あるいはGilman試薬やマグネシウムクプラート)、および有機ハロゲン化物の三成分連結反応が、銅(I)tert-ブトキシド存在下で進行し、二置換エノールシリルエーテルが位置および立体選択的に得られることを明らかにした。 更に、シリル基の置換した様々な有機金属試薬をエノンに共役付加させて調製したケイ素置換エノラートの、1,5-シリル転位を利用したワンポッド三成分連結反応によるエノールシリルエーテルの新規合成法について検討した。現在のところ、触媒量のヨウ化銅及び亜リン酸トリエチル存在下、エノン に塩化トリメチルシリルメチルマグネシウムを作用させることで共役付加が効率よく進行することが明らかとなった。今後、引き続くケイ素の転位が効率よく進行する条件を探索し、1,5-シリル転位を利用したワンポッド三成分連結反応によるエノールシリルエーテルの合成法を完成させる。 最近、上記研究の過程で、分子内にヒドロキシ基をもつアリールおよびアルケニルシランと1級ハロゲン化アルキルを含む様々な有機ハロゲン化物とのクロスカップリングが、塩基の存在下、触媒量の銅(I)塩により促進されることを見出した。これにより、ケイ素転位の中間体である環状シリカートの生成とその銅(I)へのトランスメタル化を組み合わせることで、パラジウム触媒及びフッ素イオン活性化剤を必要としない、触媒的アルキル化反応が進行することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、sp2炭素上のケイ素原子がエノラート酸素原子へ転移するBrook転位を鍵とする、多成分連結反応によるエノールシリルエーテルの立体選択的な合成法を開発することである。 今年度は、昨年度に引き続きケイ素の[1,2]転位を利用したα,β-不飽和アシルシラン、有機金属試薬、および有機ハロゲン化物の三成分連結反応による完全な位置および立体選択的なエノールシリルエーテルの新規合成法を開発し、論文報告することができた。また、上述の反応を[1,5]転位に拡張した新たな多成分連結反応について検討を開始した。具体的には、共役エノン、転位の鍵となるケイ素原子が置換した有機金属試薬、および有機ハロゲン化物の3成分連結反応の検討を行い、第一段階の共役付加までは問題なく進行することを確認し、[1,5]転位への拡張のための足がかりを確立できた。上述の共役付加により生成したケイ素置換エノラートの[1,5]転位が実現出来れば、目的の多成分連結反応が開発できる。 また、ケイ素転位を基盤とする本研究過程に於いて、分子内にヒドロキシ基をもつアリールおよびアルケニルシランと有機ハロゲン化物との銅(I)塩による触媒的クロスカップリングを見出した。この触媒反応を、エノラートへの転位に拡張することで、新たな触媒的エノールシリルエーテル合成法の開発に着手している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に得られた結果を基に、ケイ素転位を鍵とする多成分連結反応を、異なる置換様式や全置換エノールシリルエーテルの位置および立体選択的合成法へ拡張する。そのために、これまで検討してきたケイ素の[1,2]および[1,5]転位を[1,3]および[1,4]転位へ拡張すると共に、反応に利用できる連結成分の探索を行う。具体的には、1)シリル銅あるいは含ケイ素有機金属試薬、ケテン、有機ハロゲン化物の三成分連結反応による非対称ケトンの位置選択的なエノールシリルエーテルの調製法、2)含ケイ素有機金属試薬、酸塩化物、有機ハロゲン化物の三成分連結反応による三置換エノールシリルエーテルの合成、などを検討する予定である。 更に、本研究過程で新たに発見した、分子内配位による活性化に基づく銅(I)塩によるシラン類の触媒的アルキル化の結果を基に、本反応をケイ素のエノラート酸素への触媒的転位反応を新たに検討し、新規エノールシリルエーテルの合成法を開発する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度の予算執行実績において若干の「次年度使用額」が発生しているが、研究は概ね予定通り進行しており、特に計画の変更を必要としていない。 次年度は当該研究費及び、翌年度以降に請求する研究費と合わせ、新規な多成分 連結反応を設計し、その立体選択性を検証すると共に成果の発表を行う。そのた めに以下に述べる計画に従い経費を使用する。 消耗品費:出発物質の合成のために、各種有機化合物、合成試薬を購入する。反 応溶媒、抽出溶媒、またクロマトグラフィーによる生成物の単離精製のために、 THF、DMF、塩化メチレン、エーテル、酢酸エチル、ヘキサンなどの溶媒を購入す る。生成物の同定、構造解析で核磁気共鳴装置を使用する際に必要な重クロロホ ルム、重ベンゼン、重ジメチルホルムアミド、重THFなどの重溶媒を必要に応じ て購入する。出発物質の合成、各種反応を行うためのガラス器具、出発物質・反 応生成物の単離精製のためのカラムおよび薄層クロマト用の吸着剤としてシリカ ゲルおよびアルミナゲルを購入する。 旅費:研究代表者および協力者が成果を学会で発表するために、出張経費(交通 費・宿泊費)を使用する。 その他:構造決定にはNMRスペクトルを使用するため、装置の利用料を計上する。
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