研究課題/領域番号 |
23550119
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
小林 雄一 東京工業大学, 生命理工学研究科, 教授 (90153650)
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キーワード | アリルピコレート / ピコリン酸脱離基 / アリル化反応 / 銅試薬 / 光学活性 / シクロバクチオール / アナストレフィン |
研究概要 |
我々が近年見いだした第2級アリルピコレートと有機銅試薬とのアリル化反応は脱離能の高いピコリン酸脱離基 (Py-CO2) を有するため,従来に勝る反応性と選択性を示す。平成24年度ではこの反応系の適応範囲の拡張を目指した研究を行い,以下の成果(1)~(5)を挙げた。 (1) アリル化反応を使った第4級炭素の構築:ガンマ位にR1とR2を有する R1(R2)C=CHCH(OCOPy)R3とArMgBr/銅塩から誘導した芳香族銅試薬 (Ar = 芳香族基) のアリル化反応を検討した。今まで使用していたCuBrよりもCu(acac)2 を使うと,立体選択的かつ位置選択的に anti SN2’ 生成物を与えた。ガンマ位のR1とR2を大きくすると反応性は低下したが,単に試薬量を増すことで反応を完結できた。一方,銅試薬の芳香環上の置換基による電子的・立体的因子は反応性・選択性にさほど影響を及ぼさなかった。これらの成果は J. Org. Chem. に発表した。(2) 上記アリルピコレートとアルキル銅試薬とのアリル化反応による第4級炭素の構築では,上記反応で見いだした Cu(acac)2 よりも従来から使用していたCuBrの方が高い選択性を示した。現在,一般性を検討している。(3) シクロアルカノンのアルドール反応を行って調製した第2級アリルピコレートはArMgBr/Cu(acac)2 銅試薬 (Ar = 芳香族基) と選択的かつ高収率に反応した。(4) 1-メチル-1-ビニルシクロヘキサン骨格をもつ天然型生理活性化合物の中から,シクロバクチオールAとCを選び,ベータピネンから誘導した光学活性なシクロヘキシリデンアリルピコレートとMeMgBr/CuBr 試薬とのアリル化反応を行い,この部分構造を選択的に構築し,全合成を達成した。(5) アナストレフィンの合成ではセミ体の合成に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第2級アリルピコレートと有機銅試薬とのアリル化反応の適応範囲の拡張を目指した研究を行った。 この反応を使った第4級炭素構築では,当初,CuBrとArMgBr から調製した試薬を使ったが,反応点であるガンマ炭素上での立体障害の影響により位置選択性は低下した。しかし,Cu(acac)2を使うことで,高い位置選択性を確保でき,一般性の検討まで行うことができた。その後,アルキル銅試薬とのアリル化反応による第4級炭素の構築では Cu(acac)2 よりも従来から使用していたCuBrの方が高い選択性を示した。この様なアリル化反応に対する銅塩の影響は予想外であり,その分,研究を完結させるまでに時間がかかったが,次のテーマは予定より早く完成した。 シクロアルカノンのアルドール反応を行って調製した第2級アリルピコレートと銅試薬との反応では,上述した経験を生かし,芳香族試薬とアルキル試薬を調製する銅塩を使い分けして順調に研究を開始できた。シクロバクチオールの合成では当初,中間体の光学純度が一定しなかったが,合成ルートを変更してこの問題を解決できた。予定通りの仕上がりであった。アナストレフィンの合成では,ラセミ体の合成ルートを開発できた。この研究も予定通りの仕上がりであったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
第2級アリルピコレートと有機銅試薬とのアリル化反応を使って有機合成上,有用な変換反応を開発したい。さらに,アリル化反応を使った生理活性化合物の合成もてがける。具体的には以下のことを計画している。 (1) シクロヘキサン環にアリール基 (アリール基: 芳香族基) を導入する方法を開発する。すなわち,1-シクロアルケニル-1-アルキルピコレートと銅試薬との反応によって,2-アリール-1-アルキリデンシクロヘキサンを合成し,シクロヘキサノンに変換する。 (2) 開発したアナストレフィンのラセミ体の合成ルートを念頭において,光学活性体の合成を検討する。 (3) 第4級炭素をもつVerapamil, Sporochnol, LY426965等の生理活性化合物の合成法を開発する。
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次年度の研究費の使用計画 |
反応溶媒,試薬,分析試薬,等の消耗品代に当てる。ルーチンで使用するガラス器具も必要に応じて購入する。
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