研究課題/領域番号 |
23550131
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
尾池 秀章 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20282824)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 環状高分子 / 環拡大重合 / リビングラジカル重合 |
研究概要 |
本研究では,多くの汎用高分子材料に用いられるビニルモノマー系に適用できる環拡大重合を用いた環状高分子の合成法を確立することを目的としており,平成23年度は,ビニルモノマーの環拡大重合において鍵となる,リビングラジカル重合活性を有する環状化合物の構造最適化と効率的合成法の確立を中心に研究を行った。NMP (Nitroxide Mediated Polymerization)およびRAFT (Reversible Addition/Fragmentation Chain Transfer)重合にそれぞれ適用可能なアルコキシアミンおよびチオカルボニルチオ基を分子鎖内に含む環状分子の合成を行った。NMPを可能とする代表的なアルコキシアミンであるTEMPO(2,2,6,6-tetramethylpiperidine 1-oxyl),およびRAFT重合を可能にするチオカルボニルチオ基を含み,両末端に二重結合を有する鎖状化合物を合成し,Grubbs触媒を用いて閉環メタセシス反応を行うことで,30員環程度の環状化合物(化合部1および2)の合成に成功した。 TEMPOを含む環状化合物1をスチレンとともに加熱することで、環状ポリスチレンは得られるものの、分子量分散度は多少大きい(Mw/Mn = 2程度)ことがわかった。分子量分散度が大きい要因のひとつは、環状分子間でのラジカル交差反応と考えられ、温度、溶媒、濃度を中心に検討したところ,比較的低温で長時間反応することで,ある程度分散度を小さくすることができたが,ラジカル交差反応を完全に抑制するには至っていない。また、チオカルボニルチオ基を有する環状化合物2を用いたスチレンの環拡大重合も同時に検討したところ,こちらでもラジカル交差反応が確認されたものの,その程度は小さかったため,今後は化合物2を中心に環拡大重合の検討を行っていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度は,ビニルモノマーの環拡大重合を可能にする環状化合物の合成法の確立を第一の目的に研究を行った。その結果,環状構造構築にGrubbs触媒による閉環メタセシス反応を用いることで,NMPおよびRAFT重合をそれぞれ可能にする30員環程度の環状化合物を比較的収率よく合成する方法を確立することができた。したがって,この点までは順調に目的を達していると判断している。一方で,これらの環状化合物を用いたスチレンの環拡大重合においては,目的の環状ポリスチレンの生成は確認したものの,ラジカル交差反応による高分子量体の生成や,熱重合の進行なども同時に起きていることが確認された。温度,溶媒,濃度や時間といった重合条件の検討も行ったが,現在までのところ,選択的な環状ポリスチレンの合成には至っていない。当初の予定では,ある程度選択的な環状ポリスチレンの合成を可能にする重合条件を確立することとしており,この点でやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は,これまでに合成した重合部位を有する環状化合物を用いて,環拡大重合の条件検討を引き続き行う。特に,RAFT重合を可能にするチオカルボニルチオ基を有する環状化合物を中心に検討を行う。またアルコキシアミンおよびチオカルボニルチオ基部位の構造を化学修飾して重合活性を変化させた環状化合物の合成もあわせて検討する。これらを通して,選択的な環拡大重合を達成する。選択的な環拡大重合を可能にする環状化合物および重合条件を確立した後は,当初の計画通り,スチレンに加えてアクリレートやメタクリレートなどをモノマーに用いて,モノマーの適用範囲について調査する。さらには,環状高分子の大量合成および環状ブロック高分子の合成へと展開する。得られた環状高分子類の熱分析,粘弾性測定,光散乱測定などを通して,環状高分子の基本的物性について調べ,その環状トポロジーに由来する特性について,体系的な知見を得る。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度の研究費のうち次年度に使用する予定の研究費は14,492円(直接経費の0.8%)であり,平成23年度は,当該研究費が生じたものの,ほぼ当初計画通りに研究費を使用した。環状化合物の合成検討を平成24年度も引き続き行うため,この研究費は,反応における溶媒の購入費に組み込む。平成24年度の研究費は,環状化合物の合成用試薬,重合モノマー類,一般合成試薬,反応および分離精製用有機溶媒,に合成用一般ガラス器具類として物品費を計上する。また高分子学会の年次大会,討論会における成果発表,調査のための旅費,および成果発表における投稿料を計上する。
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