前年度までに,クラウンエーテルで連結したビフェニル誘導体を剛直なπ共役系で連結したポリ(ビフェニレンエチニレン-alt-フェニレンエチニレン)誘導体を合成し,生成ポリマーへの「らせん誘起と記憶」の現象について検討した.その結果,アセトニトリル中では,光学活性アミノ酸の過塩素酸塩との錯形成により,ビフェニルの動的軸性キラリティーが一方向に制御されるだけでなく,ポリマー主鎖が一方向巻きのらせん構造へと折りたたむことを見出した.さらに,アキラルなグリシンや金属カチオンで置換後も,ビフェニルユニットのねじれが記憶として保持されるため,アセトニトリル中では一方向巻きのらせん,クロロホルム中ではランダムな構造へと,溶媒の種類によって可逆的な変化を示すことを見出した.これは,外部環境によって可逆的コンホメーション変化が可能な「らせん構造の記憶」の現象の初めての例である. 最終年度は,クラウンエーテルで連結した動的軸性キラルなビフェニルユニットが,一方向巻きらせん高分子創製の有用なビルディングブロックとなることの一般性を調査した.その結果,本ユニットを直接連結したポリ(ビフェニレンエチニレン)においても同様に,可逆的コンホメーション変化を示す「らせん構造の記憶」の現象が発現することを明らかにした.また,動的らせんポリマーであるポリアセチレンの側鎖に本ユニットを少量導入することによって,「らせん誘起と記憶」が可能であることも実証した.以上の結果は,本ユニットを利用することにより,様々な主鎖骨格の動的らせん高分子においても「らせん誘起と記憶」の現象を発現できる可能性を示唆している. 以上の成果によって,金属やアンモニウムカチオンを主鎖に沿ってらせん状に精密に配置した様々な超分子錯体を構築できることが明らかになった.今後は,これらを不斉認識の不斉場に利用した機能発現を目指していく予定である.
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